「何いってんのよ! ここから劇場までどれだけ歩かなきゃいけないと思ってるのよ! 駅前で降りるのなら最初から電車乗ってるわよ。劇場はもっと向こう側よ! 真っ直ぐ行って! そして右折するのよ! もう開演しちゃったじゃないの!」

 すると運転手さんは三叉路の左車線側に直進しようとした。劇場は右側だ。遠のくばかりか、さらに20分は遅れる選択を彼はした。
 その瞬間、ナッツ姫と水かけ姫と化した私に、豊田真由子元議員までもが降臨した。

 「左行ってどーすんのよっ! 劇場は右側って言ってるでしょうが! 直進よ! そして右折よ! Uターンよ! いったいなんで左走るのよ! 左行ったらもう元に戻れなくなるじゃないのよ! 直進よ! 危ないじゃないのよ! 劇場は右側よ! 劇場正面につけてって、何度も言ってるでしょうが! 違うでしょ! 違うでしょ!」

 この、怒鳴り続ける私は、タクシーのモニターにしっかり録画されている。これが流出すれば私もまたパワハラタレントとしてボコボコにされるに違いない自信がある。怒りのマネジメントの失敗が相手のパニックに繋がって、お互いに状況をどんどん悪化させていく。

 パワハラしないために昔から工夫してきた。“怒り”というのは、する側も仕事のパフォーマンスに影響するしされる側も傷つく。だから仕事が未熟なスタッフがいればそれを指摘するのではなく、災いが私自身に被らないように私が工夫する。

 「○○が問題だ」と指摘せず、「今回のように○○で問題が起きてご迷惑をおかけしたくないので、これから○○の時には念のため一本メールも入れておいてくださいます? お手数かけてすみません」と下手に出て災いを回避する。

 でもそういうタイプのスタッフは、その一本のメールも失敗する。そのうえに逆切れもする。こうなればもう指導は無理、と判定し、私の窓口を他の誰かに代わってもらい、窓口担当を通しての仕事のやり取りになる。私が私自身のパワハラ要因から逃げる。そういう回避策をとる。

 だが、その担当窓口が最近言うには、「メールでもトラブルので、結局、あのスタッフとのやりとりはファックスになった」そうだ。窓口が代わってもトラブルは変わらない。要はそのストレスを誰がかぶるか、ということに過ぎない回避策だ。

 あるいは、その担当者ごと他の人に代わってもらう。私がその担当者にパワハラをしないための回避策だ。こちらの窓口を代えるか、担当者に代わっていただくか。とにかく、私の中のナッツ姫と水かけ姫と「このハゲ」議員を封印せねばならないのだ。