「今日は休みだから、△△ルートにしましょう。街中はガラガラですよ」と運転手さん。
 だがすぐ失敗に気づいた。なんで車が動かないのか。その原因がデモにあることが分かった。

 「*****はんたーい」という声が聞こえてきた。デモ隊の前後を警察が厳重に挟み込んで先導している。一車線を警察車両が陣取っているため、残り一車線しかない。直進車線には左折車が、交差点をデモが通りすぎるのを待つ。直進したい車は左折車が消えるのをひたすら待つ。

 やっと左折車が消えたら、次の交差点にはすでにデモの人々が歩き、そこもまた左折したい車が直進車を止める。結果、繁華街に着くまでデモ隊と同じスピードでタクシーは走ることになった。

 「もう、開演に間に合わないじゃない!」

 よりによってデモルートを選ぶなんて、と、語気も荒くなった。劇場に近づく道路に来たら、入るべき路地を指示するつもりだった。アンガーマネジメントその2。タクシーでは前もって運転手さんに道順を詳細ごと述べない。一度にたくさんの情報を入れると運転手さんはパニックになって、ブレーキを踏んでじっと考えるか、間違った反芻をしかねないので、私自身のためのアンガーマネジメントとして、目的地→ルート選び→詳細の道案内、という順番でお願いすることにしている。

 が、私の語気の荒さを感じた運転手さんは、急がなきゃ、と急ハンドルで路地に車を突っ込んだ。そこは、東京で例えるなら休日の渋谷の109のある交差点、あるいは道玄坂と言えば想像していただけるだろうか。休日で若者と改造アメ車と不法駐車であふれかえる道を運転手さんは私に確認なく選んだのだった。

 人だらけなのでタクシーはクラクションを押し続けて前進する。が、人だらけなのでまた歩くスピードでしか車は動かない。

 「なんで、こんな道に入るんですか! あのまま4車線ある車道をまっすぐ行ったらすぐ劇場なのに!」

 一段と語気が荒くなった。

 「いつもこのルートで劇場まで行ってますので」と運転手さんは言う。
 「どうぞ」と到着した場所は駅前だった。
 「…ここは駅前でしょ」
 「はい。劇場へはいつもここでお客様を降ろしています」

 その言葉を聞いた瞬間、私に、ナッツ姫と水かけ姫が降臨した。