その時だ。
一流のすごさを感じた。靴底がどうであれ、床がどうであれ、ルグリは回転した。条件を問わず、なぜかは私には計り知れないが、彼にはそれができる力があるということだ。捻挫しないかなど心配したことは、私が素人であるゆえだ。
そういえば、ルグリと共に各地を回るスタッフが、私の後ろ姿にルグリがつぶやいたひと言を私に伝えてくれた。ルグリはこう言っていたわよ、と。
「練習が足らんわ」と。
確かに私はここ1年、バレエのレッスンをしていない。
彼のお見通しどおり、"練習が足らん"のだ。それは、通訳を通じて撮影の現場ではなく、ボソリと本番後、彼の口から出たのだから本心だろう。
「練習が足らんわ」
ルグリには、何もかもがお見通しだった。
一流とは、きっと
練習が足らん私は、彼が目の前でくるりと回った時、その本当の凄さがわからなかった。どんな状況でも一切慌てず、凄ささえ感じさせず、さらりとやってみせた彼はつまり、瞬時に状況を見極め、瞬時に最善の動きを選び、瞬時にやってみせたのだ。
相手の目を真っ直ぐに見て話し続けることも、その場の空気を一瞬でつかむことも、絶妙な緊張と親しみを保つことも。
たまたまできたりできなかったり、ではない。
うまくできたらいいな、でもない。
どんな状況にあっても、やってみせる。
たゆまぬ鍛練をひたすら続ける先に、それはある。
一流とは、一時の肩書や名声とは別の、見せびらかすような派手なパフォーマンスとも別の、きっと、真摯な努力の別名だ。
公演は、8月から大阪、名古屋、東京である。一流に興味のある方はどうぞ。

『私はこうしてストーカーに殺されずにすんだ』