私はやにわに靴を脱いだ。なぜなら、本番前にちょっと回転してみたら、革靴の底では絨毯に摩擦が起きてしまい、まったく滑らず回れなかったからだ。ストッキングでも絨毯だと摩擦があった。だが、やってみた。

 「ほら。ほら。何回やっても私、2回転しかできひんねん!」

 と私はルグリに訴えた。

 すると、ルグリはやにわに椅子から立った。そして自らポーズを始めた。

 …やった!!と思った。踊ってくれる!

 ただ、彼もまた革靴だ。床は絨毯だ。足を捻挫しないでくれっと願った。

 …だが、彼は瞬時にまばゆいバレエダンサーと化し、その場でピルエット(回転)の技術をしてみせ、私にこう言った。

 「な? 最初のポーズをこう変えてみ? 君のポーズから回るんは難しいねん。僕のポーズから回ってみ?」

 やってみた。できた。

 「な? できたやろ? ブラボー!」

 バレエ界をけん引するヌレエフの最後の世代の教え子のルグリに、私は一瞬だがバレエを教わったのだ。このVTRは、生涯の宝物にしたい。

それは靴底のせい?

 帰宅途中、ずっと考えていた。

 「なぜ、私の革靴だと絨毯に引っかかり、ルグリの革靴は絨毯をもろともせず回転できたのか…」

 帰宅後、自分の靴底を見た。ギザギザの波線が靴底に入っていた。

 「これだ! これで引っかかって、回れなかったんだ! ルグリの靴底はツルツルの皮だったに違いない! だから彼は回れたんだ!」

 そんな発見を確認すべく、靴箱の中から、靴底がツルツルの革靴を探し出し、絨毯の上で回転してみた。

 …やはり摩擦で引っかかった…。

次ページ 一流とは、きっと