
ご相談
「一流を目指せ」が口癖の父に育てられた私は、世間でいうところの一流大学を卒業し、いわゆる一流企業に就職しました。では、自分が一流か、あるいは一流に近づいているかといえば、まったくそういう実感はありません。父が言っていた一流とはどんな意味だったのかと最近、ふと思うのですが、父はすでに亡く、聞くことはできません。遙さんが考える一流の条件とは何でしょうか。(30代男性)

遙から
私がこの職業をやっていて本当によかったなぁ、タレント冥利につきるなぁ、と感じるシーンのひとつが、一流の人間に直接インタビューできる機会だ。
いったい、この人はどこが凡人と違うのか、どこがつくづく一流なのか、を、自分なりのつたない眼ながら観察できる。どこかのメディアに編集された映像で知るのではなく、専門家の批評で知るのでもなく、自分自身の目でつぶさに見ることができる。このワクワク感は半端ではない。
ただ、条件がある。本当のほんまもんの一流であること。社長や会長といった肩書などとは関係なく、世界クラスの一流であること。そういう人物は何が、どこが違うのか。
巨匠、来る
マニュエル・ルグリさんというクラシックバレエ界の巨匠がいる。経歴が凄い。世界最古を誇るパリオペラ座バレエ団で、芸術監督ルドルフ・ヌレエフから大抜擢を受け、階級制度のバレエシステムを飛び級でエトワール(トップ)になり、そのエトワールを23年間も務めた。
…23年間だ。
その後、現在ウィーン国立バレエ団で芸術監督をし、自らも踊る。
今回のインタビューは、『ルグリ・ガラ』といって、英国ロイヤルバレエ団、ボリショイバレエ、ウィーン国立バレエ団の、プリンシパル(トップ)達を率いての公演に向けて、彼が来日した際に実現した。
インタビュー会場には記者たちやカメラマンたちがすでに集まっていた。
「え? 皆の前でインタビューするの?」とちょっと緊張した。
映像や写真集で見たルグリの身体はまるで筋肉の彫刻と言おうか、情熱とエネルギーの塊と言おうか、汗だくの姿、筋肉のラインが見事な裸の上半身、跳躍、躍動、エレガント、野生美、というイメージだった。
実物は…
スーツ姿で笑顔のルグリがそこにいた。エッと思った。
私はバカだ。つい、汗だくの筋肉の彫刻が登場するとうっかり思っていた。
スーツを着ていて当然なのに。