その瞬間、私の周りから人がいなくなった。中には「ひぇ」と声を上げて私を遠ざける人もおり、その光景は私自身がまるでバイ菌扱いを受けたようだった。

 私は慌てて、その人に言った。

 「それは誤解です。私は熱もなく、咳も治まった」

 「今のインフルエンザの特徴がそれなのよ! 熱が出ないものだから、皆にうつしてまわっているのよ!」

そして誰もしなくなった

 まさかそこで、いや私はインフルではなく、もっと恐ろしいマイコプラズマだと告げたらどうなったことか。

 それももう完治している。だが、パニックを起こしている群衆の中でそんな事情は届くはずもない。私はその日から“バイ菌”としてトレーニングを受けるはめになった。

 そして、思った。

 「これじゃあ、誰もマスクしないよね」

 私は人前に出る時、あるいは、人の中にいる時に一度も咳をしない。それは飛沫感染でうつることを知っているからで、徹底して咳止めの処置をしてから集団に入る。

 そのうえで、うつされたくないからマスクをしているのにもかかわらず、このマスクが「私は病気です」というシグナルとなって人から敬遠される始末だ。

 そして、「インフルエンザよ!」の掛け声とともに、他の人たちは、マスクをせずコンコンと咳をしている人のところに集まってトレーニングを始めていた。

 無知、ということの恐ろしさを知った瞬間だった。

 その後、行きつけのエステサロンに行った。

 エステティシャンはマスクをしながら咳をしていた。激しいはじけるような咳は本当の風邪だ。

 激しく咳をするなり、「すみません!」と謝りながら、それでも、彼女は“咳止め”というものを服用していない。

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