高知の高速出口で「おじいちゃん、ありがとう!」とタクシーを飛び下り、そこで待つ担当者の車に乗り換えた。

 「会場までどれくらい?」
 「1時間です」
 「お客さんは?」
 「待ってます!」
 「なんでおじいちゃんのタクシーなのよ!」
 「全タクシー会社、高知までというと断られたのです! それとJRはどこにも電話が通じません!」

 担当者は若い男性だった。…が、車のスピードはかなりゆっくりだ。後部座席で歯ぎしりした。

 ちくしょうとつぶやきながら突風と戦うおじいちゃんのほうがカッコ良かった。

歓声と最終バスの間

 「会場で休憩は?」と担当者。
 「要りません」
 「いったん楽屋に?」
 「要りません。到着したらその足で舞台に上がります。何分講演しましょう?」
 「お客さんの帰りのバスが田舎なもので一台しかありません。遅刻しても終わり時間は同じで」
 「わかりました」

 やがて、到着。じっと座るお客様全員に背後から大声で叫んだ。

 「お待たせしました!」

 客席から歓声が上がった。舞台に駆け上がろうとしたその時だ。司会者がマイクで喋った。

 「では、遙さんが到着されましたので、主催者代表の挨拶から…」

 …うそ…。

 悪い予感は当たる。そこから延々、主催者の挨拶が続いた。私の喉はカラカラで、トイレも辛抱している。が、舞台を優先しようと思った。その私が今、演台横でじーっ、と待っている。

 講演の終了予定時間は着々と近づいていた。いったい何をやっているんだ。お客さんの最終バスの時間は変わらない。そんな中で講演者が着いたのになぜ他の人が喋るんだ。なぜそれ、お客さんたちを待たせている間にやっとかないんだ。

 ようやく私の出番がきた頃には、客のテンションはズドンと下がっていた。当然だ。主催者挨拶は通常、退屈だ。到着直後の「キャー」というテンションは、長い挨拶で底に落ちた。限られた時間で私なりに頑張ったが、限られた時間はあっという間に過ぎ、やがて最終バスが出ていった。