改札は想像以上にパニックになっていた。途中下車の客が精算のために長蛇の列を作る。私はチケット代は諦めることにした。…お客さんたちが待っている…。

 タクシーは私を迎えにきた、たった一台が、静かに駅前に止まっていた。

 …電車を飛び下りなくてよかった…。降りた後の閑散とした光景を思うと愕然とし、タクシー一台を奪い合う理由が理解できた。

 乗って新たな不安を覚えた。

 …かなりのおじいちゃんじゃないか…。

 運転手は高齢だった。その上、…カーナビがないじゃないか…。

 息せき切って言った。

 「高知の〇〇に!わかりますか!」

おじいちゃんは戦う

 運転手は言った。

 「へっ!高知!わからん!」
 「ナビは?」
 「ない!」
 「なんとなくこっちが高知、は、わかりますか?」
 「なんとなくなら行けるが、そこから先はわからん…」
 「なんとなくでいいから、行って!」

 そこから、おじいちゃんは頑張った。運転手も高齢だが、高速を走ってわかったのは車両も古い。スピードを上げると不安をかきたてる軋み音がする。突風に吹かれる度に左右に揺れる車が車線をまたいでしまうが、おじいちゃんは必死でハンドルを握り、歯をくいしばって耐えながら走っているのが斜め後ろから見える。

 「ちくしょう」

 突風と戦うおじいちゃんの独り言だった。

 担当者に電話した。

 「タクシーに乗ったけど、道がわからない。それと、今で何分、お客さんを待たせてる?」

 「今で、30分、お客さんを待たせてます」

 …この仕事をして始めての"遅刻"だった。がっくりと肩を落とした。30分。会場でお客さんがじっと待つ。想像した。悪夢だった。