担当者は提案した。

 「今停まっている駅で降りてタクシーを拾ってください。電車は通行禁止ですが車道は今なら通行可です。今のうちにタクシーで瀬戸大橋を渡り、その後、在来線に乗り換えて高知に来てもらえませんか」

 私は疑問を伝えた。

 「まず、この辺りの駅にタクシーがいるのですか。また、橋を渡って在来線と言いますが、どの電車も瀬戸大橋を渡れないでいるのに、乗れる電車があるのですか」
 「…」
 「まず、私が車両から降りている間に電車が出たら洒落にならない。電話で駅にタクシーがいるかどうか聞いてください」
 「わかりました」

タクシーへ急げ

 やがて1時間が経っただろうか。ええいままよ、という気分だった。土地勘は地元の担当者のほうがある。いつ電車を脱出したら開演に間に合うのか、だいたい車で現地まで何時間を見込めばいいのか、私にはお手上げだった。結果、こうなった。

 「今、駅の改札前にタクシーを手配しました。今すぐ電車を降りてタクシーで高知まで来てください。タクシー会社は〇〇。ナンバーは△△です」
 「〇〇。△△ね。了解!!」

 降りようとした時だ。後ろのビジネスマンが私に声をかけた。
 「僕も高知に乗せていってもらえませんか?」

 車両中の人たちが私同様あっちこっちに電話をし、あるいは車掌を捕まえては詰問した。だがこういう場合、誰に聞いてもラチが明かないのだ。突風がいつ止むかなんて、車掌にも運転士にもJRにも分からない。だから直感で動くしかない。

 「すみません。私は急いでいるもので」
 高知といっても都市部ではなく私は山奥の村に仕事がある。お客さんたちが待っている。そういう事情を説明する時間も惜しく、ビジネスマンの要求を断った。

 するとビジネスマンは通路をふさぐように仁王立ちし「僕も乗せてください!」という。

 その横暴さに私も感情的になり、「ですから無理なんです」と体当たりするように電車を降りた。その頃、皆が感情的になっていた。