だが同じ日に同じ宿にいる兄夫婦を無視するのもなにかと思い、妹なりの配慮のつもりで、「じゃあ、女友達を連れて挨拶には行くから、お年玉くらいは包んでやってほしい」とお願いした。

 女友達とは私の同業者だ。芸能界というところは、互いの家族がそれぞれを応援し合うという慣習めいたものがあり、私もまた先輩たちのご家族からお小遣いを頂いてきた。

 お小遣いには意味がある。「厳しい芸能界で、今後もうちの家族をよろしくお願いしますよ」という家族なりの想いが込められている。

 そんな話を兄にした。その女友達には過去幾度も助けてもらってきたことを思い出しながら、そういえば、助けてもらうたびに兄には報告をしてきたことも思い出した。

 やっと会える妹の友達。まして、同じ芸能界で互いに頑張っている。兄としてお年玉をやるのは当然すぎるほど当然であることを、もっと言えば、やらねば恥をかくことを、私は兄に説明した。

「あほらし」って、そう来るか…

 すると、兄は言った。

 「なんで挨拶だけに来る女にカネをやらなあかんねん。あー、あほらし。それやったら同じ日に予約するんじゃなかった」

 この返事に私は説得を諦め、「じゃあ、当日は挨拶に行かないから」と念押しして、当日を迎えた。

 友達と楽しくカニを食べながら、兄夫婦も今頃、二人でカニを食べているんだろうなぁと脳裏に浮かぶ。友人との貴重な時間を堪能しながら、やはり挨拶に行こうかとも思ったが、思いとどまった。

 ひとたび会えば、挨拶だけでは終わらず、まあ座れ、まあ一杯飲め、となって、挨拶だけのはずが10分、30分、1時間…となることが容易に想像できる。それに付き合う友達の精神的疲労も想像できる。そして、妹の友にお小遣いも渡さずにさようならでは、兄が恥をかく…。

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