岡山芸術交流のあと、あまり日をおかずに訪ねたのは、倉敷市から西に進み、広島との県境を越えたところに位置する福山市。ここに、常石造船の神原秀夫氏が開基として、1965年に建立された臨済宗建仁寺派の神勝禅寺というお寺がある。ここに、白隠の禅画200以上を有する展示館、そして現代美術家の名和晃平氏と彼が主宰する創作プラットフォームSANDWICHの手になるインスタレーションができたというので、案内していただいた。

 「神勝寺 禅と庭のミュージアム」と名付けられているのだが、実に広大な土地に複数の堂宇が立ち並び、国際禅道場もある荘厳な雰囲気の場所だ。ただ、山を利用して作った素晴らしい庭を散策しながら、展示館に向かう仕掛けになっていて、静謐な感覚と同時に、美しい景観に心安らぐ思いもする独特の雰囲気の場である。

持続的に地域に価値を生むために

 最後に建築としても美しいパビリオンに入り、真っ暗な中でインスタレーションを「体験」するのだが、それまでの禅寺のお山探訪と白隠の禅画鑑賞も含めて、このミュージアム全体で、言語化しがたい禅体験(の一端)を感じさせてくれるように作られている。

 移築された17世紀の建物から、最新のインスタレーションまで、「禅文化体験」というコンセプトが一貫していて、潔い。しかも、その深さ、美しさを素人ながらに感じ取れるというのは得難い体験だった。

 その晩は、同じく常石造船グループに関連するベラビスタという素敵なホテルに宿泊させていただいたが、ミュージアムからハイエンドのリゾートホテルまで、地域の中核企業の経営者が複数世代にわたり、文化事業を通じて地域の魅力を高めていることに、(少し大げさな言い方を許していただければ)感動した。

 大原美術館、ベネッセアートサイト(と瀬戸内国際芸術祭)、禅と庭のミュージアム。それぞれが複数世代の創業家によって磨き続けられてきた、その結果を我々は見ている。石川さんの試みも、将来的にはミュージアムを作り、教育ともリンクさせて、長いスパンで地域をよりよくする動きとして計画されており、次世代にもなんらかの形で引き継がれていくのだろう。

 考えてみれば、地域の伝統芸能や祭り、あるいはさまざまな習俗の継承という形で、多様な文化が複数世代にわたって引き継がれてきたのが我が国だと思う。これに触れた人たちの力を解き放ち、センスの良さを地域の魅力とする。これが「持続的に地域に価値を生む」観光の一番の根っこになるだろう、いや、意思をもってそうしていくべきだろう、と強く感じている。

 文化とセンス、その大事さと共に、そこに思いきった投資をしやすくする仕組み・仕掛け作りを応援していきたいと思う。同じように感じてくださる方がいらっしゃれば、ぜひ声をあげていただければ嬉しい。

 単純にインバウンドの数を追うだけでは、観光「立国」なるものは、薄っぺらなものに終わってしまう。そうならないだけのものを、まだまだ日本は持っているのだから。