(写真:加藤省二/アフロ)

 「成熟社会で付加価値を生むのは、センスの良さ。そして、センスの良さは文化から」
 確か、平田オリザさんがどこかで、同じ趣旨のことをおっしゃっていた記憶があるが、こういう感覚を強く持てる経験をした。経済同友会等で観光立国に関わる仕事をさせてもらっているのだが、その関連で最近訪ねた2カ所でのことだ。

 長野県は山ノ内町、志賀高原の入り口にあたるところに、湯田中という温泉がある。古くからの湯治場だし、最近は雪の中、露天の温泉に入るスノーモンキーでも有名なので、ご存じの方も多いだろう。かなり古びた温泉街で、素晴らしい宿もいくつかある半面、メインの通りを歩くと、廃業したままの宿や商店などが目立つところだった。

 ここに、欧米やアジアからの旅行者に向けたゲストハウス、地元食材やクラフトビールを楽しめるレストランやカフェができ始めている、というので見学させていただいた。

 使われなくなった古い温泉宿を改装したゲストハウス2カ所、これまたシャッター商店街状態になっていた元肉屋の建物に手を入れたレストラン。どれも豪華なものではないが、心地よい空間になっており、サービスやメニューの中身、見せ方など、すべてトーンが揃っている。最近のポートランドやシアトル発の文化にも通じる肩の力が抜けた、でもお洒落さを感じる仕上がりだった。一言でいうと、センスが良い。

 これなら、海外からの観光客のみならず、日本人でも好きになってリピーター化する人が出てくる可能性があるな、と思った。

 温泉街の再生で地域の再活性化を果たそうと、さらに新しい物件を開発中なのは、「WAKUWAKUやまのうち」という会社。地元の八十二銀行や政府系のファンドが出資しており、まだ若い経営陣が地元に入り込んで活動しておられる。

 海外で数多くの旅を重ねてきたうえで地元に戻りたいという若手にゲストハウスの経営をまかせる、東京でグローバルなデジタル企業に勤める地元出身者にウェブサイト構築を指南してもらうなど、若くて、かつ海外からの視点でも地元を見ることができる人たちに、活躍の場を提供しているのも特徴的だった。

 域外のファンド出身の若手経営者を含め、生まれてこのかた、あふれるモノとサービスの中から、自分の感性に合うものを選ぶ経験をし続けてきた人たち。海外で現地文化に深く触れた上で、日本の地域にある地元の文化の中で、何を抽出し、何は変えていくのか、という作業を、おそらく無意識のうちに繰り返しながら、新しいサービス業を作りつつある人たち。彼らの存在と、それを支える金融機能が、この試みの核だと感じた次第。