• まず、技術の進化に応じて教育レベルを向上させてきたこと。綿繰りの時代には、初等教育の義務化。工場の時代には、中等教育の義務化。コンピュータの時代には、実質的に大部分の人が大学などの高等教育を受ける仕組み。そして、ビッグデータ・AI(人工知能)の時代には、生涯学び続けるシステム。
  • 第2に、賢明な投資と優れた社会システム。具体的には、インフラの質と量、基礎研究への投資とそれが民間に活用される仕組み。さらには、リスクテイクへのインセンティブが強い文化・社会と、同時に無謀なリスクテイクを防ぐシステム。そしてhigh energyな(勤労意欲の強い)低スキルワーカーとhigh IQな(知的能力の高い)リスクテイカーの両方を惹きつける移民システム。
  • そして、自由と人権という普遍的な価値観を表に出し、グローバルシステムの安定のためには(自らが最大の受益者でもあり)常に応分以上の負担をしてきたことで、長期に渡っての同盟諸国を得てきたこと。また、国内政治で異なった立場にある同士でも、国の成長モデルを変えるといった重要な局面では必要な妥協を行う政治システム(と政治家)が存在したこと。

米中が抱える「国内事情」

 この米中それぞれの成功モデルは、きちんとまとまっているし、何より現在のトランプ政権と中国当局が棚に上げているポイントをしっかりついている。中国の不公正なルールと慣行、米国現政権の短期の人気取りと価値観の破壊。これがその最たるものだろう。

 もちろん、このフリードマンの指摘内容だけで、米中の貿易戦争、テクノ冷戦に決着をつけることはできない。どちら側にも、「国内事情」があるからだ。

 トランプ政権は、現在の選挙制度の中で再選を果たすためには、強い支持層に対して短期的な人気取りを行うことが最重要課題になってしまっている。中長期の正論よりも、わかりやすいディール結果(あるいは「敵」作り)が優先されるのだ。残念なことに、中流階級から没落した人々からすれば、「価値観をベースとした世界をリードする責任ある大国」などというのは、自分の暮らしを改善してから言ってくれ、ということだろう。

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