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 高度成長期、日本の製造業は特筆すべきレベルで、生産性を向上させてきた。この原動力としては、何よりも個々の企業での生産性向上の努力があったことは言うまでもない。ただ、忘れてはならないのは、これらのミクロの経営改善に加えて、マクロの構造的な要素も大きく寄与したことだ。

 たとえば、激しい労働争議を乗り越え、労使共同で生産性を高め、その果実を会社と従業員が分け合うという慣行を作ったこと。あるいは、バリューチェーン全体の生産性を高めるべく、系列という構造を作り、活用したこと、などである。

 さて、ここのところ、ようやくサービス産業の生産性向上の重要性が広く認められるようになってきた。そもそも、日本のGDPの7割以上をサービス産業が占め、さらに医療介護のように、今後も国内各地域で、需要の伸びが見込めるサービス業領域が複数存在する。日本の経済成長のためには、サービス業が極めて重要だということだ。

 ところが、人口減少・高齢化の影響で、働き手が不足する時代が長期にわたって続く状況になっているにも関わらず、多くのサービス産業領域では低生産性が温存され、良質な雇用と賃金を提供できていないため、需要があっても採用が困難で、人手が足りないという状況に陥っている。たとえば観光業では雇用者の75%が非正規雇用だし、介護分野の現場の賃金レベルの低さは、ご承知の通りだ。

 この状況を脱し、(特に地方での)安定雇用と賃金増を持続的にもたらす、さらには日本の成長率を底上げするためには、なんとしてでもサービス産業の生産性を上げることが不可欠だ、という共通認識が出てきたということなのだと思う。

 少し古いデータだが、RIETI(経済産業研究所)の岩本晃一氏の分析によれば、2000年から2006年の間の日本の宿泊・飲食業の平均労働生産性は、米国を100とした場合、28に過ぎないという。実に、7割以上生産性が低い、ということになる。

 こういった大きな流れやそれをサポートする分析もあり、さまざまな政府の会議でも、サービス産業の生産性を上げるための方策が議論の俎上に乗り始めた。これ自体は、非常に好ましいと思うのだが、気になるのは、その内容が、「個々の企業の生産性向上(たとえば、先進事例の紹介)」と「サービス人材の教育(たとえば、観光MBAの複数の大学への設置)」に偏っていることだ。

競争原理が働かない公的・公設病院への赤字補てん

 前述したように、生産性の向上にはミクロ要因だけではなく、マクロの構造要因も大きく関わっている。個々の企業の生産性向上支援は、ミクロ要因への働きかけそのものだ。人材の話は、ミクロとマクロ両面に関わるが、これ以外にも、たとえ耳触りが良くなくとも、解決しなければならない、マクロの構造要因がいくつもある。それらに正面から向き合わなければ、サービス産業の生産性向上、特に他の先進国並みへの向上はとてもおぼつかないと思う。

 たとえば、医療現場の生産性。個々の病院の経営努力をうながし支援するという政策は確かに重要だ。しかし、病院間の競争を歪ませるような構造的要因を取り除くために、何をしていくか、という議論も必要だ。

 日本は皆保険制度をとっているため、そもそも競争があまりない業界だと誤解されがちだが、フリーアクセス(患者はどの病院でも自由に選べる)制であるため、患者を集める上での病院間の競争は、実は熾烈だ。この一定の競争が、医療の質を担保しながら、経営努力をうながす、というプラスの効果を持ってきたことは評価しなければならない。