繰り返しになるが、これらは何も間違っていないのだが、これだけでは他国と同じレベルになんとか追いつこう、というだけになってしまう。どうやって、将来に向けたイノベーションを起こす人材が生まれてくる確率、イノベーションそのものの確率を上げて、他にない価値をつくれる国になっていくのか。このためには、アートの持つ「クリエイティブジャンプを生む直感力を育む力」「頭だけではなく、心と身体を揺さぶり、新たな発想につなげる力」「分野の垣根や心理的な壁を越える力」が大変有効だと思う。

 以前のコラムで、日本のアート市場の規模が小さい、という話を書いたことがある。大雑把に言えば、世界の美術品市場の4割前後が米国、そして中国と英国がそれに続き、これらの3カ国で8割を超えてしまうというのが昨今の状況だ。

 この時には、書ききれなかったのだが、アートに関わる市場規模には3種類のものがある。一つ目は、美術品市場。バブル期には日本もそれなりの位置を占めていたが、今や見る影もない。これは、経済活性化や現役アーチスト支援の上で、大きな課題である。

 二つ目は、魅力ある美術館やアートフェスティバルなどを通じた観光などの周辺市場の規模。これも、中期的なソフトパワー強化、短期的な観光需要増、の両面で極めて重要であり、ここのところ拡大してきている。

 最後が、子供をはじめとする我々国民自身が、アートに触れ、それを楽しむことで、全体としての創造力をあげ、イノベーションを生んでいく、という間接的だが本質的な芸術の持つ価値とその市場規模だ。

アートとイノベーションの相関

 先日、金沢21世紀美術館の成功の立役者である、現兵庫県立美術館館長、蓑豊さんのお話を聞く機会があった。蓑さんによると、金沢21世紀美術館開館時にまずやったのが、市内全小中学生を美術館に招くというプログラムだったらしい。実は、私がお手伝いしている倉敷の大原美術館でも市内の子供たちに美術と美術館を楽しむ機会を作るという活動を何年も続けている。

 金沢でも倉敷でも、時を経るにつれ、この体験をした中から、面白いビジネスをつくったり、感性と論理を生かしたソーシャルビジネスを立ち上げる人たちが出てきているという。この手のものの常で、完全に因果関係を証明することはできないけれども、関わっておられる方の実感としては、「若いうちに美術や美術館に触れる機会」があった人たちとなかった人たちでは、かなり明確な違いがあるらしいし、私自身もイノベーションとの相関を強く信じている。

 中島さんのように、数学と(音楽という)芸術の両方のプロになるのは容易ではなかろうが、少なくともきちんとしたSTEM教育を受け、さらにARTの刺激を受け、感性を磨く人が増えるとことで、将来の日本発イノベーションの数は大きく増えるに違いないはず。

 皆さんは、どう思われますか?