銀行口座を作るケースを考えてもらえるとよいのだが、登録済みのデジタル化された情報で個人を特定することで、本人確認の手続きとペーパーワークは劇的に簡素化される。なかなかマイナンバーカードが使われるようにならず、一方で銀行窓口で事務手続きをすると、かなりの時間待たされるのを覚悟しなければならない我が国とは、正直大違いだ。

 このAadhaar、民間企業にも利用が許されており、「インドにおける事務手続き」という、悠久の時を経てもまったく変わらない感じがする「時間食い」が少しずつ駆逐されていくのも、時間の問題かもしれない。

「Aadhaar(アーダール)」について啓蒙する文書の一部。(写真は、インド・カルナータカ州の公式ウェブサイトから)
「Aadhaar(アーダール)」について啓蒙する文書の一部。(写真は、インド・カルナータカ州の公式ウェブサイトから)

洗練されたシステムの背後にある巨大なリスク

 これは、なかなか注目に値するな、と思っていたのだが、最近読んだユーラシア・グループ(地政学的リスク関連のコンサルティング会社)のgeo-technology分野(地政学や政治学とテクノロジーの関連性を分析する研究領域)のレポートは、Aadhaarの課題とリスクを取り上げていた。

 そう言われてみればもっともなのだが、ありとあらゆる個人認証が必要な行政手続きや民間の取引。これがサイバーセキュリティの備えが十分でない国で実用化されると、そのリスクは巨大になる。

 仮に、ハッカーがなんらかの手立てで、本来リアルタイムで行われるべき個人認証を何時間もかかるように遅延させる。こうなると、経済全体が麻痺状態になり、極端な場合は、経済活動が収縮しかねない、というのだ。実際に、ある国のハッカー集団が既にインドのインフラに狙いを定めて、動き始めているとも指摘されていた。

次ページ リスクが顕在化した時、とるべき手段とは?