(写真:show-m– Fotolia)

 人類全体を考えると、現在は、間違いなく喜ぶべき時代だ。グローバルレベルで見ると、20世紀終盤以降、極度の貧困にあえぐ層は半分以下になり、乳幼児死亡率は激減、人類全体の平均余命は歴史上まったく経験したことのないレベルに達している。

 具体的に見てみよう。国連のMDG(Millennium Development Goal)レポートによれば、一日1.25ドル以下で生活する極度の貧困層は、1990年時点で途上国の人口の5割を超えていたが、2015年には14%まで激減。世界全体で極度の貧困状態にある人口は、同じ期間に19億人から8.4億人に減っている。

 世界の5歳以下の乳幼児死亡率は、1000人あたり90人から43人へと半減。この結果、途上国中心に人口は増えたにも関わらず、5歳以下で命を落とす子供の数は、約1300万人から600万人へと大きく減少した。

 普段、メディアを通じて得る情報では、内戦や難民、さらにテロが大きく増えているように感じられるが、紛争による死者は10万人あたり0.7人となっていて、第二次大戦以降の20世紀後半より1桁少ないレベルに下がっている。

 また、生活の質の向上も目をみはるものだ。自動車や公共交通機関による遠距離の移動の自由、夜遅くまで自由に使える明かり、さらには清潔なトイレや水道へのアクセス。こういった数世紀前には貴族でも手に入れることができなかった恩恵が、世界中の中間層の手の届くところにある。

 たとえば、水道にアクセス可能な人口は、1990年に23億人だったものが、2015年には42億人へと増加している。いうまでもなく、この背景にあるのは、工業社会の広がりに伴う経済成長だ。特に、多くの新興国で経済が離陸し、成長軌道に入ったことが大きい。もちろん、先進国からのさまざまな支援もなされてきたが、途上国自身が豊かになることで、これらの恩恵を享受できる範囲が猛スピードで広がっている。

限界を迎えつつある工業化と資本主義による経済成長

 一方で、こういう人類史上かつてないような幸福な時代環境にも関わらず、先進国の多くの人々は、経済・社会のあり方への不満を隠さなくなってきている。Brexitや米大統領選の様相は、その現れの例だろう。また、資源多消費型の地球環境の持続可能性への懸念もあって、将来に対しての不安感を持つ層も多い。

 経済的な豊かさと人が感じる幸福感とは、ある程度豊かになるまでは強い相関をもつが、一定レベルの富を手にした後は、相関が下がる。こういう研究結果を見たことがあるが、社会全体としても、一定の豊かさに達した後は、手にしたものに満足し、幸福に感じるのではなく、格差や将来不安の方をより強く感じるようになるのかもしれない。

 こういった流れの中で、経済成長をどこまで求めるのか、あるいは成長を前提とする資本主義は変容を余儀なくされるのではないか、という議論がいろいろと出てきている。