「多様性がイノベーションを生む」と言われるが、具体的に何の多様性が最も寄与するのかについて今回は考えてみる。(写真:PIXTA)
「多様性がイノベーションを生む」を証明するデータ
多様性がイノベーションにつながる。このことは、多くの企業や組織を拝見してきて、経験的に正しいと信じているし、感覚的にもピンとくる。
これをきちんと定量的に証明するデータはないだろうか。そう思って、いろいろ探してきた中で、最近ドイツの同僚がミュンヘン工科大学と共同で行った調査の結果が、なかなか示唆に富む内容だった。(The Mix That Matters: Innovation Through Diversity)
■図表1がその結果だ。
■図表1 多様性とイノベーションの関係
注: 縦軸は、直近3年間の収入に占める新商品・サービスの割合。横軸はBlau index。
出所: ミュンヘン工科大学とBCG(ボストン コンサルティング グループ)が2016年に行った共同調査。対象は、ドイツ、スイス、オーストリアの171社。分析に必要な情報が得られた98社のデータをプロットしたもの。
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縦軸が、イノベーション力を表す指標として、直近3年間の収入に占める新商品・サービスの割合。横軸は、Blau Indexといういくつかの多様性(diversity)を考慮にいれた指標だ。
縦横の相関を表したラインを見ると、右に行く、すなわち多様性が高いほど、新商品・サービスの収入が多くなっている。もちろん、グラフにあるように、この相関ラインより上下両方に外れた企業も複数あるけれど、統計的に有意な形で、分析結果が出ているのが面白い。
(この調査は、BCGとミュンヘン工科大学が共同で、ドイツ・スイス・オーストリアの171社を対象に実施したもの)
性別、出身国、キャリア…何の多様性が寄与するのか
この調査結果と分析の中で、さらに面白いと思ったのは、■図表2だ。
■図表2 6つの多様性タイプごとのイノベーションへの影響度
出所: ミュンヘン工科大学とBCG(ボストン コンサルティング グループ)が2016年に行った共同調査。対象は、ドイツ、スイス、オーストリアの171社。必要な情報が得られた98社について分析した。
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■図表1の横軸である多様性指標には、6種類の多様性タイプが含まれている。取締役会(ないしそれに準じるもの)の構成員がどれくらい多様かを、以下の項目について評価して、指標に取り込んでいる。
・ 性別
・ 出身国
・ キャリアパス(複数企業で働いた経験)
・ 産業(調査対象企業が属する業界以外の業界で働いた経験)
・ 年齢(年齢層の拡がり)
・ アカデミックバックグラウンド(学位の種類等)
アカデミックバックグラウンドの多様性は、ほとんど関係ない
■図表2は、この6つの多様性タイプのそれぞれについて、それがイノベーションにどれだけ影響度が高いかを、統計的に分析した結果だ。
イノベーションにつながる相関度が高いものが4つ。あまり関係ないものが1つ。マイナスの方向に相関するものが1つ、という分析結果になっている。産業、出身国、キャリアパス、そして性別の多様性が高ければ、イノベーションにプラスになっている。アカデミックバックグラウンドは、ほとんど関係なく、年齢(の拡がり)はマイナス効果をもたらしている、ということらしい。
正直なところ、最後の「年齢の拡がりがマイナス」ということ以外は、なるほどなるほど、という感覚なのだが、そこだけが気になる。これを文字通り読めば、取締役会メンバーの年齢層が高くても、低くても、比較的近い年齢のメンバーが集まっていれば、イノベーションにプラス、ということになる。
「年齢の多様性はマイナス」のナゾ…
これまで経験してきた感覚では、確かに若い経営層や取締役会は、新しいビジネスや商品・サービスに肯定的だし、逆に年長の方ばかりで占められている場合は、コンサーバティブに見受けられる例が多かった。今後は、この同年齢層の枠をとっぱらって、幅広い年齢の方々が喧々諤々と議論する取締役会が望ましい、と信じていたのだが、それは違う、という分析結果になっている。
もちろん、これはドイツ語圏を中心としたデータで、彼らのガバナンスシステムは日本の企業とは異なっている(この分析でも、いわゆる取締役会ではなくドイツでのスーパーバイザリーボードの多様性を使っている企業が多い)。したがって、単純に鵜呑みにするわけにはいかないが、それはそれとして、データが示している結果には、重みがある。
ぜひ、この手の分析を、日本で行い、かつ取締役会、経営会議など、もう一段踏み込んだ意思決定機構のパターンごとに実行してもらいたい、と思う次第。
まずは、多様性がイノベーションに効く。しかも多様性タイプによって、効くかどうかに違いがありそう。というあたりを素直に受けとめた上で、今後もこのテーマを追いかけていこうと思う。
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