トランプ大統領登場以前から、時代の変化の中で、白人の労働者層を中心に、中流層から没落していく人たちが増えていた。それにもかかわらず、米国の政治・経済システムはそこに有効な手を打ててこなかった。当然、このことに対して、「忘れられた白人層」の人たちは、不満を持ち、強いアンチエスタブリッシュメントの思い・エトスを心に秘めていたに違いない。

 トランプ大統領は、そこを突き、現在の選挙制度のひずみもあって、マグマのように溜まっていた思い・エトスを利用することで当選を果たした。

 ここでも、中流の崩壊にどう対応するか、という論点自体は正当なもので、理がある。が、その答えをきちんと提示するのではなく、ネガティブな思い・エトスを自らが有利になるように利用したあたりは、とても正当化できない。

 「正当だが見過ごされた、ないし先送りされた論点」をつき、同時に「有権者の不満をあおり、過去のやり方とリーダーを罵倒することで喝采を受ける」という組み合わせで、自らの選挙勝利を獲得したわけで、トランプ氏が中間選挙、そして再選を睨んで、さまざまな国際問題についても同様の手法をとることは、当然なのかもしれない。

ポジティブな変革には、何が必要か

 さて、先送り、ないし見逃されてきた論点をきちんと提起する。その中で、変革を起こすために、人々の中にある思い・エトスを活用する。このどちらも、ポピュリスト的政治手法だけではなく、変化を避けがちな社会に対して、ポジティブな変革を起こしていくためにも、重要なポイントだ。

 最近のコラムで、明治維新が実現した背景には、欧米列強の脅威だけでなく、門閥制度に阻まれて政治・行政のリーダーになれない下級武士の思い・エトスがあったのでは、という話を紹介させていただいた。

 当然のことながら、それに続く問いは、今どうするのか、ということになる。さまざまな制度疲労にもかかわらず、大きな変化を避けてきた我が国に、ポジティブな変革をもたらすためには、どのような思い・エトスを拾い上げ、前向きな変革への力に変えていくのか、という問いだ。

 正直なところ、現時点での個人的仮説めいたものになってしまうが、次回のコラムでは「いま着目すべき、日本の中に蓄積されてきた思い・エトス」について、少し触れてみたい。これが、来るべき議論のスタートポイントとなることを期待して。

 具体論は次回に譲るが、私が「これは大事だな」と思う思い・エトスは、「地域愛」、「従来型経済成長への疑義」、「相対的貧困への怒りと将来不安」の3つだ。それぞれ、微妙に重なる部分があり、またその思い・エトスの具体的な顕れは、散発的な「点」に留まっていて、力となる「線」や「面」にはなっていないが、厳然と存在すると考えている。これらの背景と、今後どのような形で、ポジティブな活用を図っていくかについて、議論をしていきたいと思う。

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