(写真:REX FEATURES/アフロ)

 英国の国民投票結果が、世界の資本・金融市場を揺らしている。投票自体の結果は、ゼロイチで「離脱」とはっきりしたのだが、今後何が起こるか、あまりにもはっきりしていないのが、今回の動きの特徴だ。

 BCG(ボストン コンサルティング グループ)のマクロ経済リサーチセンターのレポートにもあるように、複数年かけて、英国とEU(のおそらくは主要国)の間で、さまざまな交渉が行われることになる。英国の取りうる手段自体もEEA(欧州経済地域)、あるいはEFTA(欧州自由貿易連合)への加盟という手もあれば、個別のFTA(自由貿易協定)締結を目指すというやり方もある。

 この結果次第で、英国の通商条件や他地域との資金・人・知的財産の流れのスムーズさが変わってくる。当然ながら、英国のGDPへのインパクトの大きさ、為替の強弱、株価の動向なども、すべてこれからの動き次第で、どう転んでいくかについては大きな幅があり得るわけだ。

 こう考えると、少なくとも当面の間は、(実際には当面は、英国の置かれた立場自体は何も変わらないのだけれど)資本・金融市場は上下両方向に大きく振れる可能性が高い。要は、ボラティリティが高まる、ということだけが、かなり確実だということになる。

緩和的な政策が過度に拡大していく

 もちろん、影響は英国だけではなく、広い地域とイシューについて、表れてこよう。

 すでに動きが出ているが、英国以外の国で離脱を目指す政治的な動き、あるいはスコットランドのようにEUに残留したいUK内地域の動き、など、政治的な二次波及・三次波及も拡がらざるを得ない。

 経済面では、欧州内でのさまざまな不透明感から、カウンターパーティリスクを恐れる金融機関の保守的行動、当面の投資を控えようとする企業セクターの動き、などが欧州内で広がる可能性が高い。こうなるとEU全体の需要減少が貿易相手、特に中国を中心とする新興経済にマイナスに働くことになる。

 上述したBCGのレポートにも書かれているように、企業としては、複数のシナリオを作り、それに備える。さらには、事業環境が急変する際に、迅速に動ける(adaptive)ことや、競争相手より急変後の立ち直りが早い(resilient)ことが、ますます重要になると考え、みずからの態勢を見直すことが重要になってこよう。

 中期的には、もうひとつきちんと考えておくべきことがある。それは、不安定さへの対応として、各国政府と中央銀行が打ち出してくるであろう対策が、(皮肉なことに)将来の不安定さを高める、ということだ。

 これから先進国、新興国ともに、さまざまな政府・中央銀行が、「経済と市場の安定策」という名目で、財政投下や金融緩和をさらに進める動きが強まる。こういった動きは、当面の対策としては正しいのだが、もともとリーマンショック以降続いている世界的な財政刺激や金融緩和という状況に、これが上乗せされることは、忘れてはならない。「フリーランチなどというものはない」という言い方があるが、過度に緩和的な政策が継続・拡大することには、必ずコストが存在する。

いつか訪れる大きなショックに備える

 特に大きいのは、生産性の低い、本来は退出すべき企業が存続し続けることだ。たとえば、日本をとっても何年もの間、銀行の不良債権比率ないし貸し倒れ率は記録的な低さのまま推移している。一見、これは好ましいことのようだが、潜在成長率が低い中であまりにもそういう状態が続くのは正直おかしい。将来、どこかの時点で、まとまって不良債権や貸倒れが発生するリスクを溜め込んでいると、考えてもよいように思える。

 これは、日本の企業に関するクレジットリスクだけの話ではない。世界の広い範囲で、財政刺激・金融緩和を通じて、資産価格の上昇と市場退出企業の減少が、行われてきているのだ。ここに、さらにBREXIT対策が追加されることになる。

 極端な言い方をお許しいただければ、個別にはおかしくない政策の集合が、積もり積もって、将来破裂したらグローバルに大きなインパクトを生むバブルを生成している可能性が極めて高い、ということだ。

 繰り返しになるが、政治的にも、大部分の政府・中央銀行にとっては、将来リスクはあってもまず現在目の前にある危機に対応する、というのが正直自然だろう。

 ただ、個々の企業は、その状況下で、どこかで来る大きなショックに備え、それを乗り越える力を蓄えておくことが必要となる。これは、バランスシートの余裕を増やすだけではない。一部の金融機関は、すでにデジタル化を含むコスト構造改革に着手し、備えの一部にしようとしているし、別の一群のメーカーは、事業ポートフォリオの地域分散を見直しつつ、化ければ大きな収益力を生むイノベーションへの投資を増やしている。

 奇手はない。さらに不透明、不安定な事業環境の中で、遠くまで見通し、本来やるべきことを加速化し、拡大する。これが10年後の企業の盛衰を分ける時代環境だと思う。