国際的なリゾートとなったニセコ
この3月に、久しぶりにニセコを訪ねる機会があった。ご承知のように、いまや名実ともに国際的なリゾートだ。
バス停の表示や居酒屋のメニューも、基本的に英語。当初からターゲットとしていたオーストラリアからだけでなく、欧米各国やアジアの富裕層まで幅広く、海外からの顧客がやってきている。交番に配置されているお巡りさんも、2名いればどちらかが英検2級以上相当の英語コミュニケーション力があるのだとか。実際に中心部を歩いているのも、大部分外国人だった。
さらに、スキー教師として来日したロス・フィンドレーさん以下の継続的な努力で、パウダースノーが売り物の冬だけでなく、カヌー、ラフティング、バイシクル・モトクロスなど、夏場も楽しめる通年型に変身したというのも面白い。
通年稼働で、海外からの顧客が見込める、ということで、ホテルやショッピングができるお店も新たな参入が続き、ヒラフのメインストリート近辺も数年で見違えるようになっていた。
比較的短期間で大きく変貌できたのは何故か?
自分が利用しない時には貸し出すという前提の、ある海外旅行者向けコンドミニアム型ホテルも見学させてもらったのだが、これには驚かされた。25室以下のブティックスキーホテルとして、2年連続世界一にランキングされたというこのホテル。最上階の約170平米の部屋には、テラスの露天風呂を含め羊蹄山を目の前に望む風呂がいくつもある。
元々数年前に1億8千万円くらいで売りに出されたらしいが、今では3億出しても買えないのだとか。東京都心3区と変わらない値段だ。詳細は教えてもらえなかったが、どうやら一泊平均50万円程度の宿泊価格で、年間を通してかなりの高稼働らしい。単純計算しても、年に1億数千万円の収入が入るわけで、当然こういった資産価格になるわけである。
元々は、日本人デベロッパーが開発した日本人向けのスキーリゾート。これが、比較的短期間の間に、大きく変貌できたのは何故か。これまでも、前述のロスフィンドレーさんたちの努力、さらには外国人・外国企業も巻き込んで地域開発を計画・実行してきた自治体の動き、など、さまざまな要素が挙げられてきた。
新陳代謝をしやすい環境が極めて重要だった
どれも重要だったことは間違いないのだが、今回現地を訪ねてわかったのは、これらに加えて、新陳代謝をしやすい環境が極めて重要だった、ということだ。
一番わかり易いのは、新しいホテルやショッピング用の建物が建ちやすい環境。
もともと、メインストリート周辺も巨大ホテルが立ち並んでいたわけではなく、数多くの個人経営のペンションが営まれていた。このオーナーの方々が高齢化し、事業承継か廃業かということを考えるタイミングと、ニセコの国際リゾート化が同時に起こった。土地の利用価値の高まりによって、古くなったペンションが数千万円で売れる、ということになり、新規参入者からするとスムーズに購入が進むことになったらしい。
1987年のリゾート法制定以降、日本国内の多くの観光地で、団体旅行向けの巨大なハコモノが建った。いまでは、それを撤去することが高コストなため、景観改善やプレーヤーの新陳代謝の妨げになっているのと、好対照である。
役割を終えた企業がスムーズに退出できることが大切
身も蓋もない言い方になってしまうが、役割を終えた企業やその資産がスムーズに退出できないと、新しい需要が生まれ、リスクテイクしようという新規参入者が出てきても、なかなか地域全体としては、変わっていかず、観光地としての魅力アップにものすごく時間がかかってしまう。古くからある温泉地のいくつかが代表例だが、この課題は相当大きいと言わざるを得ない。
幸いなことに、観光立国を目指すという政策が実を結んだ部分も多く、日本人の国内旅行需要減という大きな課題はあるものの、インバウンド旅行者はかなり増えてきた。この流れを活かし、特に高価格帯のサービスを消費してくれる中の上以上のリピーターを確保していくには、観光地のハード・ソフト両面での新陳代謝促進策が不可欠だと、あらためて確信した次第だ。
そのためには、ハード面で言えば、ハコモノへの融資をしてきた銀行が債権処理をしやすくするような金融監督行政の方向づけ、あるいは退出時に税メリットがあるような仕組みの時限的な導入(たとえば、2020年までを集中新陳代謝期間として位置付ける、など)が必要だろう。
ソフト面でも、さまざまな新しいサービスを行おうとする新規参入者が、既存の事業者に邪魔されない仕掛け(既得権維持装置となっている一部の観光協会や組合の権限を低下させる政策運用、など)や、規制緩和(通訳ガイドのあり方見直し、など)が不可欠だと思う。
事業・産業の新陳代謝促進策に期待
さて、この新陳代謝。当然ながら、観光業の建築物の入れ替え、あるいは新規参入の促進、ということだけに留まらない話だ。
第4次産業革命に向けて、ということで、大企業が事業構造を変換しやすくなるように、事業のカーブアウト(企業のなかから特定事業を切り出して、社外の別組織として独立させる)が税制上不利にならないような仕組みが、今般導入されるのは、大きな意味での事業・産業の新陳代謝促進策として、評価に値する。
ただ、農林水産業、医療などの規制業種をはじめとして、特に中小事業者保護の名目で新陳代謝が進みにくいような有形無形の縛りがある分野は数多い。
日本における開業率の低さが問題視され、ベンチャー支援が声高に語られるようになって久しい。本当は、入る方を増やしたいのならば、出る方も増やすことが必要なはず。この両面をあわせた政策、特に地方自治体レベルでの実行担保と金融監督行政からの支援。これが、成長戦略の次のメインテーマになっても良いように考えているのだが、いかがだろうか。
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