効果的だったシンガポールのSARS風評被害対策

 もちろん、原発事故の影響があった東日本大震災のケースとは違い、「しばらくすれば、元に戻る」という考え方もあるだろう。しかし、風評被害対策については、その打ち手次第で、元に戻るスピードが大いに違ってくる。

 幸いなことに、既にさまざまな形で、観光面での風評被害対策の手を打とうという動きも出始めている。たとえば、髙島宗一郎・福岡市長等の音頭で、博多どんたくに九州の他の地域も参加し、観光のアピールを行うようにする、などというものだ。これらの打ち手が可能な限り、大きなインパクトをもたらすことを願ってやまない。

 さて、こういった動きに加えて、考えておくべきことが、戦略的に現地実態と海外でのイメージとのギャップを埋める仕掛けだ。

 この点で参考になるのは、SARS(重症急性呼吸症候群)発生の際の風評被害対策のベストプラクティスといえるシンガポールの対応だ。SARSの影響を受けたいくつかの国・地域の中でも、その後の観光需要の戻りには大きなばらつきがあったのだが、シンガポールには圧倒的な早さで海外旅行客が戻ってきた。

 これはSARS後の海外向け観光マーケティングの巧拙だけの差ではなく、SARS発生中の戦略的な対応が、その後の戻りの度合いを分けたとされる。

 SARSが発生した際に、シンガポール政府は早い段階から、観光を含む海外からの人の流れに大きな悪影響が出る可能性を認識していた。このため、さまざまな施策を立案し、実行する、いわば風評被害対策の司令塔組織をすぐに立ち上げている。

 この政府組織が打った施策の中でも、もっとも大きな効果があったのは、「非アジア人によるシンガポールからの記者発表とその報道促進」だ。

 まだ、SARSが広い範囲で猛威をふるっている段階で、世界の航空会社の団体であるIATAに働きかけ、通常はヨーロッパに駐在しているIATAの広報担当のヨーロッパ人幹部をシンガポールに招請。毎週、その幹部がSARSの発生状況の最新情報をシンガポールで記者発表する、という形をとらせた。当然のことながら、この記者会見はCNNなど数多くの国際ネットワークによって、世界中に高頻度で伝えられた。

熊本地震でも「外国人による現地からのコミュニケーション」を

 この結果、世界各国の視聴者に対し、「域外のヨーロッパ人がシンガポールに行っている」 という事実を示し、それは結果的に「シンガポールは欧米人が既に安心して仕事をしている地域だ」というイメージを刷り込むことにつながった。

 すなわち、シンガポールは国全体がSARS危機に瀕しているわけでもなんでもなく、十分に状況をコントロールできていることを知らしめた、ということだ。この結果が、その後のビジネス・観光両面での海外からの訪問者数の急速な復活につながったとされている。

 もちろん、今回の熊本・大分の震災の場合、SARSとは性質が違うため、まったくそのままの形で同じことをするわけにはいかない。しかし、次のようなエッセンスは参考になるはずだ。
― 海外の潜在旅行者に対し、彼らと同じ国・地域の人からコミュニケーションを行う
― そのコミュニケーションが現地で行われていることを明示し、直接の被害地域以外の安全性を間接的に示す

 いろいろな手法が考えられるが、たとえば以下のような「外国人による現地からのコミュニケーション」を、現在の環境に即した形で行うことは、すぐにでも実行可能だし、やるべきではなかろうか。
― アジア・欧米それぞれの影響力あるブロガーを、日本政府が九州に招致
― 熊本・大分を含め、観光需要への対応が可能な「無事で安全な」地域から、SNS等での発信を依頼する

 こういった仕掛けと(沖縄に対して行ったように)九州地域限定(かつ必要に応じて時期も1年程度に限定)で、ビザの条件緩和を行う、といった広義の需要創造策を組み合わせることで、いち早い海外からのインバウンド需要復活が期待できる。

 ここは、遅滞なく、政府がリーダーシップをとり、自治体・民間と協力して、同時多発的に複数の観光風評被害対策を繰り出していくべき時期だと思うのだが、いかがだろうか。