硬い組織と柔らかい組織。両方のいいとこどりは可能か?(写真:山岸勝彦/アフロ)
硬い組織は一糸乱れず、鉄の規律で戦略を遂行
さまざまな会社をお手伝いさせていただいて思うのだが、世の中には「硬い」組織と「柔らかい」組織がある。硬い組織、柔らかい組織、それぞれ強みがあり、適した外部環境があるのだが、昨今求められるようになってきたのは、両方のいいとこどりであり、それ自体が大きな経営課題になってきているようだ。
あえて単純化した二分法で語るならば、典型的な硬い組織とは、一糸乱れず、鉄の規律でトップダウンの戦略を遂行する、いわば徹底力で勝つ組織だ。上意下達が徹底され、組織規律が何より大事。外から見れば一枚岩そのもの。
ピラミッド型の組織構造で、コミュニケーションも明確なラインに沿って、上から下へ、下から上へ、情報が整然と流れる。全体戦略にしたがって、自分がどのような行動をなすべきかが、現場第一線に至るまできちんと理解されており、「現場で考える」余地はここまで、というのがはっきりしている。持ち場持ち場で、無駄な逡巡や試行錯誤が起こらないようになっているわけだ。
アマゾンはどちらかと言えば硬い組織
競争環境が比較的安定していて、ディスラプティブな(既存の枠組みや技術を破壊するような)変化が起こりにくい状況では、こういう組織が強い。規模が大きく、巨大なオペレーションを円滑に回していくこと自体が価値を生む場合も、強みが発揮されやすい。顔の見える競争相手との戦いに勝つことが第一義ならば、硬い組織の優位性が光る。
こういった硬い組織は、重厚長大型の産業に多いように思われがちだが、(外部からの所見ではあるが)たとえばアマゾンは、どちらかと言えば硬い組織だと思う。大きな事業戦略の決定は本社トップレベルで行われ、世界中の現場に対して、KPI(重要業績評価指標)をベースにタイトなコントロールがなされる。全社での規模を活かした投資やバイイングパワー(優越的な購買力)、これが強みなのは当然として、同時に、現場での徹底力、実行力が競争優位の源泉になっている。
柔らかい組織は、イノベーションと変化力で勝つ
一方、柔らかい組織。こちらは、イノベーションと縦横無尽な変化力で勝つ企業だ。新しいアイデア、商品・サービス、そしてビジネスモデル。こういったイノベーションが起こり易い状況を、組織内に作りあげることが、競争力の源泉となる。
企業と外部との壁自体を突き崩そうという力が働き、自由かつオープンに組織のメンバーが外とつながる。社内外で異質のもの同士が触れ合う場を意図的に作り続け、建設的な無駄や試行錯誤を許容する。
柔らかい組織を持つ会社では、一見ピラミッド型の組織構造に見えても、実際には組織の壁や縦のラインに関わらず、プロジェクト型で仕事が進むことが多い。縦横斜め、上下左右、さまざまな方向に情報が流れ、規律よりも創造性が優先される。
アルファベット(グーグル)は柔らかい組織
外部環境の変化への対応は、上意下達だけではなく、組織内のさまざまな部分で自発的に行われる。自分が何をすべきかも、状況に応じて、どんどん変わっていく。あたかもアメーバのように、伸びていく方向、進んでいく方向が自然と変わっていくような組織だ。
当然、大きな技術変化が起こり易いタイミング、あるいは市場が大きく変化し、従来にないビジネスチャンスがあちこちで生まれてくる産業。こういった環境下で、柔らかな組織は強みを発揮する。
どちらかと言えば、トップ企業ではなくチャレンジャー側により多く見られるが、すでに大企業であり、トップ企業のひとつでもあるアルファベット(グーグル)なども、こういう性質を有した組織だろう。
硬軟両方の特質が欲しくなる
さて、この硬い組織と柔らかい組織。それぞれに異なる組織文化があり、異なったタイプの人材ミックスで支えられている。したがって、硬軟両方の特徴を持つ組織を作り上げ、うまく回していくことは容易ではないのだが、現在の企業を取り巻く環境下では、両方の特質が欲しくなる。
工業化・高度資本主義化、そしてそれと時を同じくして起こった人口増加(人口ボーナス)による成長が鈍化し、中にはこれらをベースとした成長が終わりつつある国もある先進国。新興国の中でも、次第にこのモデルでの成長が鈍化してきつつある国が増えてきた。こういった状況では、硬い組織が強みを発揮する場合が多い。徹底力を活かして、競争相手からシェアを奪取するというゲームに持ち込めるからだ。
一方で、デジタル化による第4次産業革命も始まりつつある。AIにしてもビッグデータにしても、あるいは量子コンピュータやニューロコンピューティングにしても、技術の変化はある程度なら先が読めるが、本当のところ、それを用いたビジネスイノベーションの姿を読み切ることはできない。
決定論の世界ではなく、必死で競争するビジネスイノベーター次第で、将来の姿は大きく異なるからだ。こういう状況の中では、柔らかい組織の融通無碍さと変化力、継続的なイノベーション力が大きな価値を生む。ここでは柔らかい組織が望ましいわけだ。
工業化、高度資本主義化の最終局面と、デジタル革命、第4次産業革命の序盤。この両方の位置づけを持つ時代に生きる経営者は、どうしても硬さの強さ、柔らかさの強さ、両方を欲しくなるし、それも当然だと思う。
硬さ、柔らかさを支える組織文化は明らかに異なる
ただし、単純に両方を追求するというのでは、結局、「二兎を追うもの」ということになってしまう。特に組織文化という目に見えない魔物にどう対応するかについて、強い意識と明示された方針がなければ、木に竹を接ぐ愚を犯すことになる。
前述のように硬さ、柔らかさを支える組織文化は明らかに異なる。これを無視して、上意下達の徹底力で勝ってきた会社の中に、クリエイティブな組織を作ろうという試みをして、失敗に終わった例は数多い。
鳴り物入りで、ユニークな人材を外部調達したものの、結局周囲から浮いてしまう。あるいは、コーポレートベンチャーキャピタルを作ったものの、硬い組織向きの人材を配置してしまったり、投資意思決定をがんじがらめにし過ぎてしまい、ほとんど結果を出せない。
両方とも、異なる組織文化(そしてそれに即した人材と行動規範)に十分な注意を向けず、何も手を打たないままにしたことが大きな原因だ。
会社を硬い部分と柔らかい部分に分けると…
ということで、会社を硬い部分と柔らかい部分に分ける。具体的には、「イノベーションを追う事業部門」と「既存事業を磨き込み、キャッシュを生む部門」を分けることもなされるのだが、往々にして、これも社内で異文化コンフリクトが起こり易い。大抵は、今キャッシュを生む部門が優位に立ち、将来の期待の星と言われながらもイノベーション投資でキャッシュを食う部門への資金やヒトの配分は折衷的なものになってしまう。
もちろん、自社内では両方を持つことは無理だ、と考え、外に自らとの違いを求めて、硬い組織と柔らかい組織が組むというやり方もある。ベンチャーやデジタルプレイヤーとのアライアンスで、バーチャルな硬軟両面作戦を取るということだ。
こういった場合には、リスクリターンのシェアをどのように設定しておくか。この初期設定を契約に織り込んでおく段階で、組織文化の違いによるすれ違いが決定的な亀裂になることが多いようだ。硬い大企業の側だけに問題があるのではなく、柔らかいベンチャーの方が、自分のこれまでの成功体験とあまりに異なる世界を理解できず、必要以上にフラストレーションを感じたり、不信感を抱いたりすることも数多い。
経営学上の大きな課題であり続けるだろう
この「硬い組織と柔らかい組織の両立ないし融合」というテーマ。おそらく今後の経営学上の大きな課題であり続けると思う。
ビジネスから離れてみると、世の中には、状態に応じて、あるいは視点によって、柔らかさと硬さの両方を持つものもある。たとえば、衝撃を受けると硬くなる素材がその一例だ。あるいは水のように柔らかさと硬さの両方を持つものもある。温度が変われば、流体(水)から固体(氷)に、あるいは気体(水蒸気)に変わる。さらに、ソフトに見える水の流れも、量が増え、流れるスピードが速くなると、濁流となって、まるで硬質な岩石のように、流れの中や周囲にあるものに、強烈なダメージを与え得る。
こう考えると、単純な二分法を超えて、対処するやり方も出てくるのかもしれない。
ただ当面は、少なくとも以下のような手立ては講じておくことが重要だと思う。
(1) 組織文化、人材、行動規範の違いを、言葉にし、違いを明確にする。
(2) 「異文化理解」が不可欠だと、経営層からミドルまでが骨身にしみて「感じる」場を作る。大真面目で異なった文化を持つ会社を訪ね、交流する、といったベタな手も有効だし、最近増えてきたLGBTをはじめとしたさまざまな異文化を理解するワークショップも実は役に立つ。
(3) まず、何人かの外に開かれ、複眼を有する「異文化理解者」をリーダー層の中につくる。すべての人が「異文化理解」の先導役になれるわけではないし、なる必要もない。ややクリシェのような(常套的な)たとえだが、勝海舟、坂本龍馬、福沢諭吉といった世界情勢を睨むことができたリーダー層が幕末・維新期の日本の方向づけに大きな役割を果たしたし、ペリー来航から大政奉還までの間に、150人にのぼる若者が「異文化理解者」たるべく欧米に留学したという事実をもう一度振り返っても良いと思う。
(4) ややもすると「硬い」ことよりも「柔らかい」ことが重視されがちだが、それぞれに強みがあり、価値を生む力があることを再確認し、戦略的に「硬さ」「柔らかさ」をデザインし、マネージしていく経営意思を持つ。
今の時代環境は、意図的に「柔らかさ」と「硬さ」をデザインし、マネージすることを要求していると感じている。このテーマ、これからも引き続き、追いかけていきたいと思う。
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