要は、経済的不安、社会的不安をもたらす要因が積み重なり、各国国民の不満が増大。これを梃子に対立構造を作るポピュリスト政治家が力を得る、という流れは、まったく終わっておらず、今後さらに強まる傾向を見せるだろう。それが、世界全体を不安定にする要因となる。これが、イアンの議論の前提だ。

 その中でも工業社会を先に作り上げ、そこから生まれた富を活用して、失業対策や医療保険など、まがりなりにも社会保障制度を用意できている先進国は、まだ良い。グローバル化の波に乗ってようやく中進国になりつつある国々や資源に頼る開発途上国は、たいていの場合、大きなショックを乗り切るレジリエンス(復帰力)を備えていない。

 また政策ミスが続き、そもそも経済成長が早くも鈍化したり、長期の不況と失業増に苦しめられている国も枚挙にいとまがない。加えて言えば、移民や難民の流入、国内での宗教的、民族的対立の存在。国内地域間での激甚な格差。あるいは、若年人口がまだまだ多く、この層に十分な雇用を提供できない、などなど。“US vs THEM“の流れが奔流となる要因はまだまだあり、そのインパクトの程度はさまざまだ。

 国ごとに、その国の持つリスクの源泉が異なるわけだが、このあたりを、シンプルだがきちんと整理して提示したのが、12カ国についての部分だ。

インドに潜む宗教と貧富の対立

 具体的に挙げられた国は、中国、インド、インドネシア、ロシア、トルコ、ブラジル、メキシコ、ベネズエラ、ナイジェリア、サウジアラビア、エジプト、南アフリカの12カ国。これらの国々の人口を合計すると、世界の人口の半分以上となる。この12カ国の大多数で、大きなリスクが顕在化すれば、世界全体の問題となることは必至だということでもある。

 このうち、中国だけは、リスクをなんとかマネージできるかもしれないというニュアンスで描写されているが、それ以外の国々については、かなり厳しい見方がなされている。

 将来、世界経済の雄のひとつとなると考えられているインドについて、少しご紹介してみよう。

 まず、いわゆるアイデンティティ・ポリティクス。モディ政権の母体たるインド人民党はヒンズー至上主義が優勢だ。彼らと、「少数派」と言われながら1億人以上いるイスラム教徒との間で“US vs THEM“という流れが強まる可能性は無視できない。

 さらに、極端な貧富の差。バンガロールでIT(情報技術)産業に従事する人たちが豊かな生活を享受できるようになる一方、7000万人以上が安全な水にすらアクセスできず、2014年段階では6億人がトイレのない家に住み、2015年でもまだ2億4000万人がまったく電気のない生活を送っている。この巨大な格差は、簡単に“US vs THEM“型の政治運動に火をつけてしまいかねない。

 そして、中間層を多数生みだす前に、AI・ロボット化などで工業化による中間層の急拡大が難しくなり、かつ若年人口が巨大であるにも関わらず、(生産性を非常に低いレベルに据え置いたままの公務員以外に)良質な雇用を十分に提供することが簡単ではない、というこれから顕在化するリスク。これらのインパクトはかなりのものだろう。

 あるいは、アパルトヘイトから抜け出し、経済成長の優等生だったはずの南アフリカ。ここでの対立構造を生む源泉は「政府が自分たちのことを相手にしてくれない。考えてくれない」という大衆心理だという。