救急搬送獲得のマーケティング活動
また、病院間での患者獲得競争もなかなかのものだ。(救急車のたらい回しが社会問題化している地域もある一方、)救急搬送の受け入れ増が入院患者増にもつながることから、大都市圏以外では、競争戦略として救急獲得の「マーケティング活動」を行っている病院も多い。
たとえば、救急隊との定期会議などを通じて、普段からコミュニケーションを深め、さらに診療科別の当直体制を毎日伝える。こういった手段で、競争相手ではなく自分の病院に救急搬送がなされる可能性を高めようという算段だ。
医療費抑制の観点から、診療報酬は抑えられがちであり、どう収入を担保するかが、多くの病院にとって、経営状況の維持・改善に不可欠な要素になっていることの表れであろう。
この「競争」を前提とする日本の医療制度、そろそろ曲がり角にきており、「協調」を前提とする仕組みを相当程度取り入れていく必要があると考えている。
これまで、フリーアクセスについては、軽症の患者が大学病院を直接受診するといった弊害が語られ、一定の制限を設けるべきだという議論がなされてきた。かかりつけ医制度や直接受診の受診料引き上げといったものだ。
ただ、こういったフリーアクセスの課題除去というレベルだけでは、日本の医療制度の持続可能性が担保できない時代が近付いている。
いかにキャパシティマネジメントをするか
最大の要因は、団塊の世代の大波だ。ご承知のとおり、団塊の世代の方々は、狭義では1947~49年の間に、広義では1946~50年の間に生まれた日本版ベビーブーマーだ。この世代は、前後の世代より圧倒的に多い。狭義の団塊世代は出生時約810万人、年平均で約270万人に上る。最近の出生数が年100万人程度であることを考えると、その規模の大きさにあらためて驚かされる。
団塊世代が学齢に達して以降、小学校・中学校で教室が圧倒的に不足したという話をお聞きになった方もいらっしゃるだろう。学校自体も増えたのだが、変化の波があまりに大きいので、すべてを彼ら・彼女らの人口規模に合わせてしまうと、その後の世代がやってきたときには施設や教師が余ってしまう。
要は、「いかにフレキシブルに学校インフラを準備し、団塊へのサービス提供とその後のキャパシティマネジメントをするか」が大きな課題だったのだ。
この世代の方々が、すべて70歳代に達する時期が近付いている。まもなく団塊の世代が「医療好適期」といってもよいような世代になられ、その後は「介護好適期」に移っていく。
これは、日本全体での医療・介護インフラの必要量が、大きく増加し、さらにその後は減っていくということを意味している。今度は、学校ではなく、医療機関や介護施設をどうやって需要増(とその後の減少)にフレキシブルに対応できるようにしていくか、が問われるのだ。
団塊の方々のニーズの高まりに応えるためには、たとえば地域医療圏全体で、今後の診療科別の患者発生数をシミュレートし、その上で、個々の病院の診療科の縦割りを超えて、地域全体でのキャパシティの最適化を図る必要がある。
こういった地域での連携には、当然のことながら「競争」視点だけでは対応できない。医療機関同士が「協調」すること、もっと踏み込めば、「競争」から「協調」に舵を切る医療機関に対するインセンティブを付与することが重要となる。
Powered by リゾーム?