昨年10月に、“Fortune Future 50”というリストが公表された。これはFortuneとBCGが共同で、今後飛び抜けた成長を成し遂げる可能性の高い企業を洗い出したもので、既に時価総額が200億ドル(約2.15兆円)を超えている大企業25社(Leaders)と、まだそれ以下の企業価値だがこれから大きく伸びそうな25社(Challengers)の2つのセクションからなっている。
(リストは、こちらからご覧いただける)
デジタル技術の活用で、業界構造を変えたり、業界内の順位を下剋上でひっくり返す企業が数多く現れるようになってきたのはご高承の通り。「将来(Future)」に向けた成長期待を勘案せずに、「これまで」の結果だけを基に、Fortune 500などの企業ランキングを作る限界が明らかになってきたことが、このリスト作成の背景だという。
さて、こちらはあまのじゃくなので、つい「成長」が本当に価値を生むのか、が気になってくるのだが、この問いに関しても、このリスト作成にも深く関わった友人のMartin ReevesとJerry Hansellが中心になって新しい調査を実施し、先ごろ公開された。
(BCG/BCG Henderson Institute, How Vital Companies Think, Act, and Thrive)
図表1は、1990年から2009年までの20年間、S&P500に入っている企業の中で、年平均の価値創造率が上位4分の1に入った企業が、「売り上げ成長によって価値を創造した割合」と「成長以外の要素で価値創造した割合」を示している
(ここでは“Total Shareholder Return(TSR)“と呼ばれる、時価総額の伸びと配当によって、投資家がある一定期間にどれだけのリターンを得たかを示す指標を、価値創造率としている。逆に言えば、社員や社会に対しての価値創造は直接的には反映されていない)。
単年度での価値創造率が上位にある企業は、年率35%近い価値増を果たしていて、その71%は、成長以外の要素に由来するものだ(たとえば、コストダウンや非稼働の資産を減らす、というのが成長以外の要素の代表例)。
ところが、3年間平均、5年間平均、10年間平均と中長期の時間軸で見てみると、価値増の絶対値は下がってくるものの、その中で、成長由来の価値創造の割合が高まってくる。10年間の平均値で、価値創造率が上位にくる企業ならば、売り上げの伸びによるものが価値増の74%を占める、というのが分析結果だ。
少なくとも、S&P500について、かつ、この(1990年から2009年という)分析期間については、売り上げ成長が中長期の株主価値創造の最重要要素だということになる。
先進国の多くが安定成長ないし低成長の経済になって久しい。この結果、企業の売り上げ成長も、以前の数値よりは低くて当然、と考える経営者も増えているようだ。また、日本では売り上げだけを追うのではなく、利益率を高めることの重要性を説く向きも数多く、売り上げの成長に対する希求が下がっている企業も相当数ある。
しかし、この分析を見る限り、
― 短期的にはコストカットや資産効率の向上で、価値向上は可能
― しかし、中長期的には、トップラインの成長が価値を生むために極めて重要
だということであり、今再び、売上成長をどう達成するか、ということに、きちんと向き合うことが必要だと言っても差支えなかろう。
この分析レポートの後半にも触れられているのだが、技術や競争環境の変化が激しい時代には、既存ビジネスや既存製品に注力する(これを深く掘り下げ、利益を絞り出す、という意味で、“exploitation”と呼んでいる)だけでは、中長期にわたってトップラインを伸ばし続けることは困難だ。
新しい技術やビジネスモデルでチャレンジしてくる競合に対して、十二分に対抗し、売り上げを成長させていくためには、新技術、新製品、あるいは新ビジネスモデルといった確度の低いものへの挑戦が不可欠となる(これを、新領域の開拓という意味で、“exploration”と呼んでいる)。
この2つのバランスをどう取るか、そしてそれぞれに合わせた組織能力(人や技術)をどう備えていくか。これが、勝ち続ける企業であるための、大きな命題だろう。
レポートの中では図表2(オリジナルではexhibit3)のように、それを考えていくための大きなフレームワークが示されている。これ自体は、なかなかよく考えられているが、あくまで枠組みに過ぎない。
このフレームワークを使いながら、実際にさまざまな企業の方々と対話しながら、
― どこに本質的なボトルネックがあるのか
― それをどう打ち破るのか
について、しばらく考え続けていこうと思う。
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