バイアスを減らす仕組みや癖を入れる

 繰り返しになるが、ヒューリスティクスにしたがうと「まず答えを得る」プロセスのスピードは高まるというメリットがある。しかし、バイアスをチェックし、「本当にそうか」「違った解はないか」と分析し、自らを批判するプロセスなしでは、ヒューリスティクス頼りの思考法は、間違えてしまう危険性が高い。

 前述した「思考のスパーリング」あるいは「ひとり突っ込み」のプロセスが必要であり、さらにはその部分まで含めたトータルのスピードアップが重要だということになる。

 経営の現場では、成功したリーダーほど、過去の経験にしたがい、スピーディに解を得て、スピーディに判断を下していく例が多い。皆さんの周囲にも実例はあるだろうし、ほとんどの人が自分自身の経験値の蓄積が判断のスピードアップにつながるという体験をしているだろう。

 しかし、カーネマンが言うように、これがヒューリスティクス頼りの思考プロセスに留まっていては、間違う可能性が高い。特に、将来の不確実性が高ければ高いほど、経験頼りの意思決定のリスクは高まっていく。

 こういった失敗を防ぐには、まずはカーネマンが指摘し、さらに多くの心理学者、行動経済学者が研究してきた「バイアス」について知ることが重要だ。よく知られている「今日、100円もらえる」のと「明日、105円もらえる」ことの比較で、今日もらう方を選んでしまう。あるいは、損失は心理的に小さく見積もり、利得は大きく見積もる、という類のものだ。

 さらに、仮説とその批判といった多層性のあるプロセスを意識して行い、自らの思考パターンの中に、バイアスを減らす仕組みや癖を入れ込むことも有効だろう。

 もう一歩踏み込めば、チームの中で、お互いの思考バイアスについて語り合い、意思決定の場で、補い合うような異なったタイプの人たちをチーム内に入れ込んでいくことも大事だと思う。

 今回は、ビジネスの世界において経験則で言われてきたことが、心理学の現場で実験され証明されてきているという例の第2弾だったのだが、どう思われただろうか。

 私自身は、自分が思考する際のバイアスについて、もう一度見直してみようと思った次第だが、何より論文を読むことが面白かった。冒頭にご紹介した「ファスト&スロー」というカーネマンの著書は、その後のこの領域の研究の進化も踏まえていて、ぜひお勧めしたい本のひとつだ。

 楽しみながら、異分野の知識を獲得し、自分の世界で活かしていく。こういうのが、いわば現代版の「教養」作りのつぼのような気がしている。