人為的に引き起こした感情でテストを実施

 フレドリクソン氏は、こういった我々の経験則的な見方に、極めて近い学説の主唱者の一人で、(他の学者の研究結果も踏まえながら)楽観、喜びといったポジティブな感情のもたらす効果を、次のようなものとして挙げている。

  1. 脳が認知できる範囲が広がる:たとえば、「乗り物の例を考えよ」と問われた際に、エレベータやラクダといった(ネガティブな感情を持っているときには思いつきにくい)広いアイデアが出てくる。
  2. 注意が向く範囲が広がる:「木を見て、森を見ず」の逆で、全体観とディテールの両方に目配りができる。
  3. 結果的に、さまざまな資産を使いこなし、有利な結果をもたらすことができる:狭いものの見方にとらわれず、身体的資産、社会資産、知的資産、心理的資産などをフルに使える。
  4.  ちなみに、この論文の中では、ほぼ同じ生活習慣を長年共にしてきた修道院で暮らす修道女を調査したところ、ポジティブな感情の持ち主の方が、そうでない修道女たちよりも明確に長命だった、という例が挙げられている。

     今回とりあげた論文では、フレドリクソン氏自身のこれまでの主張を裏付けるために行った実験とその結果の示唆するところを述べているのだが、なかなか面白い。

     実験の科学的正確性を担保するための部分を除いて、中核部分だけを示してみよう。

     バックグラウンド等のバイアスがかからないようチェックした上で、104人の大学生が被験者として選ばれ、2種類のテストを受けることとなった。まず、彼らは、一人ずつビデオモニターの前に座り、ポジティブ、ニュートラル、ネガティブ、それぞれの感情を引き起こすようなビデオクリップの中から、1本をランダムに見せられる。人為的に、ある種の感情状態に置かれるわけだ。

     これに引き続き第1のテストとして、注意が向く範囲が広いか狭いかを測定するための図形比較の問題が与えられる。具体的には、ある図形群を見せられ、瞬間的に、一番上の図形と近いと思うものを下の段から選択することを求められるのだ。

     例えば、一部を抜粋したものが下の図だ。上の図形に似ていると思うものを、下の段にある二つの図形から選んでもらう。

    テストの図(「Positive emotions broaden the scope of attention and thought-action repertoires」から一部を抜粋して著者が作成)
    テストの図(「Positive emotions broaden the scope of attention and thought-action repertoires」から一部を抜粋して著者が作成)

     単純化して言うと、全体観を持って、広く見ている場合は、上段と下段の図形の大枠での類似を重視して、下段の左側を選ぶ。狭い範囲でディテールを中心に見ている場合は、図形の中の構成要素の類似性にこだわり、右側を選ぶのだという。

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