前回のコラムでも彼の意見には少し触れたが、「“おもてなし”では、インバウンド顧客は来ない」などという「はっとさせられる」テーゼを明快に述べたのは、彼が初めてだったのではなかろうか。今までの業界常識や神話的な思い込みを、データとロジックでひっくり返すのだが、観光の大きな要素のひとつである文化財という業界の現実を踏まえておられるので、説得力が非常に高い。

 「お酒と観光」というわかりやすい例を挙げてみたが、もちろん、異業種・領域からの参入者や既存の日本の常識を外れて発想できるノン・ジャパニーズの方々によるイノベーションの例は、さまざまなところにあるだろう。

 ただ、今回挙げた例に共通するのは、単に「外からの発想」というだけでなく、日本酒作りや観光といった分野について、一定以上の理解と能力の「基盤」があるということだ。スタートポイントとなる「基盤」があってこそ、「外からの発想」「新しい視点」が、単発のイノベーションではなく、継続的に価値を生む確率が高まるように思えてならない。

ヒトの輸入策でも「基盤」の議論が必要に

 やや話を拡げると、大規模な中途採用、あるいはM&Aによる異なる文化とスキルを持った人材の獲得。これを、どうやってイノベーションや継続的価値創造につなげるかに悩む企業は多い。

 この際に最重要の論点は、何を「基盤」として求めるか、その上で、何は「これまでと違ったもの」として許容し、尊重するか、だと思う。にもかかわらず、大規模な中途採用でもM&A後の統合でも、このあたりを詰めて議論するのを忘れる例が数多くあるのが実際だろう。

 さらに話が飛躍するのをお許しいただけるならば、人口減への対応策として一部で語られ始めた移民政策。

 正直なところ、世界的な高齢化、すなわち人手不足時代が近付いている中で、外からのヒトの輸入で人口減を補う、というのは不可能であり、あまりにも単純な議論だと思う。しかし、高度人材のグローバルレベルでの争奪戦は既に始まっており、座して待っているわけにはいかない。

 こういったヒトの輸入の議論においても、そもそも理解や能力として求めるべき「基盤」は何か、ということが重要な論点になる。強制的な同化は求めるべきではないし、またイノベーションにもつながらないだろうが、一方で日本の言語、文化のどの部分については、「基盤」として求めていくのか。このあたりが、日本社会に価値を生む形でのヒトの輸入策を考えていく上で、まず詰めていくべき論点ではないだろうか。

 やや、飛び過ぎてしまったかもしれないけれど、「共通基盤と独自性」という古くて新しい課題について、美味しい日本酒をいただきながら考えた次第。次は、老舗が中から生み出した新しいお酒を探して、中からのイノベーションということを考えてみようか、などとも思っている。