「人手不足」なのに人員確保に取り組んでいない不思議

 「健康不安」は一般的にはなじみのない概念かもしれない。だが、健康社会学では数値としての「長時間労働」以上に危険とされている。

 健康不安は“overwork”。すなわち「自分の能力的、精神的許容量を超えた業務がある自覚」と言い換えられる(「若者を過労自殺に追い込む「平成の悪しき産物」」参照)。

 過労自殺には、

「長時間労働」⇒「overwork」⇒「精神障害」⇒「過労自殺」

という流れが存在し、“凶器”を凶器たらしめる危険かつ重大な役目を、健康不安(overwork)は担っている。

 健康不安の重大さを知らずとも、これだけ長時間労働が社会問題になっているので、企業だって指をくわえて見ているわけではない。先の調査では、92.6%の企業が「残業削減に向けで取り組んでいる」と回答。結構な割合である。

 ところが、である。

 取り組みの結果、所定外労働時間の長さが実際に「短縮された」割合は、その半数。たったの52.8%だ。

 「半数も効果あったんならいいじゃん」と反論する人もいるだろうけど、これは「半数しか」と捉えるべき。

 なぜなら、取り組みの結果が出ていないのは有給休暇も同じだから。労働者にとって唯一の「休む権利」といえる年次有給休暇の取得促進に向けて取り組んでいる企業は72.0%もあるのに対し、実際の取得日数が「増えた」割合は、わずか35.1%しかないのある。

 先のデータで「所定外労働の原因」に「業務の繁閑」「仕事の性格や顧客の都合上、所定外でないとできない仕事があるから」とした人にとっては、有給休暇は心身の回復を促す大きな「権利」だ。なのに、その権利さえ十分に行使できないなんて、やはり「半数“しか”」でしかない(ややこしくてすいません)。

 さらに呆れるのが、所定外労働の削減に取り組みながらも「効果が実感できない理由」だ。

 半数以上(50.9%)の企業が、長時間労働が発生している原因に「人手不足」を挙げながら、実際に「適正な人員確保」に取り組んでいる割合はわずか19.9%(全企業ベース)。人員不足を理由に挙げた企業に限ってみても、たった39.0%しか取り組んでいない。

 これって……「ウケる~~」。女子高生のこの言葉がいちばんしっくりくるくらい、「ええ~~~っ!!???????」って事実が存在しているのだ。

 つまり、上記をまとめると次のようになる。

【労働者視点】
人手不足→長時間労働→パフォーマンスの低下→メンタル低下→離職(あるいは休職)→さらなる人手不足

【企業視点】
人手不足→長時間労働→パフォーマンスの低下→プレゼンティズムによる損失→生産性の低下→コスト増につながる雇用の抑制→さらなる人手不足

といった「魔の長時間労働スパイラル」に、今の日本ははまっているのである。

 ちなみに「プレゼンティズム(Presenteeism)」とは、出勤しているものの心身の不調などによりパフォーマンスが低下する状態を指す。

 プレゼンティズムは、欠席や休職を指す「アブセンティズム(Absenteeism)」より深刻な状況で、企業側の損失も大きい。

 大企業が負担する従業員の健康関連コストのうち、7割超がプレゼンティズムによるもので、15%が医療費、残りがアブセンティズムと労災と分析するデータもある。また、同僚などへのマイナスの影響も、アブセンティズムより高いと考えられている。

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