今回は「飲み会とセクハラ」について、アレコレ考えてみる。
ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏のセクハラ疑惑報道を皮切りに、連日連夜、アメリカ、ヨーロッパ、そして日本で、「んったく…」とうんざりするほどセクハラ報道が続いている。
いや、曝露、と言った方が正確かもしれない。
#me too のもと、これまで表沙汰にならなかった“事件”が次々と報告されているのだ。
先月末には、英労働党元職員の女性がハリウッド女優らによる相次ぐ告発に「勇気が出た」と、自らも党幹部によるセクハラ被害にあったことを告白……、
- ファロン国防相は、女性ジャーナリストのひざを触った疑惑で12月1日に辞任
- グリーン筆頭国務相は、運動員へのセクハラとパソコンにポルノ画像が保存されているとの疑惑が浮上したが本人は否定
- ウェールズ自治政府のサージェント議員が相次ぐセクハラ疑惑で更迭。サージェント氏は閣僚辞任の際、「私の潔白を証明する調査を望む」とコメントし、7日に自宅で死亡しているのが見つかった。
スウェーデンでは、政界で働く1300人以上の女性がセクハラ・性被害を連名で告発。中には、250件ほどの性暴力事件もあり、地元警察も動き出した。
また、米国ではトランプ大統領にセクハラされたと訴える女性3人が、連邦議会に調査を請求。
トランプ氏は否定しているが、
- 飛行機の中で女性の胸をつかみ、手をスカートの中に入れようとした
- 同意なしにキスをした
と、女性たちは主張している。
日本ではワイドショーのネタ化しているけど…
日本は日本で「なにやってんだか…」と、これまた呆れるような報道が相次いでいる。
- 立憲民主党の青山雅幸衆議院議員のセクハラ疑惑
- 初鹿明博衆院議員の強制わいせつ疑惑
- 福井県あわら市の橋本達也市長のセクハラ疑惑
- 兵庫県川西市の本荘重弘副市長のセクハラ疑惑
- 岩手県岩泉町の伊達勝身町長のセクハラ疑惑
- 暁星国際高校硬式野球部の男性監督のセクハラ疑惑
単に“セクハラ”といっても、性的暴行から、身体への接触、性的な言動、「自分に気がある」という勘違いに基づく行動まで、被害は相当に広い。
被害を受けるのも、女性とは限らず、男性もいる。
行為者は映画界、メディア界、政界、スポーツ界、教育界など、至る所にいて、権力者の立場が顕著に強く、男性の多い業界ほどセクハラが横行しているのは、万国共通である。
ただ、欧米のセクハラ問題が「男女差別」という視点から語られるのに対し、日本は「スケベなジジイ」といったワイドショー的な受け止め方が強い。あくまでも個人的な感想だが。
たとえば米国では、2017年の「今年の言葉」として「フェミニズム」が選ばれた(あのウェブスター辞典を出している「メリアム・ウェブスター」が選んでいます)。
これは、前の年と比べて検索された件数が急上昇した言葉に対して贈られるもので、「フェミニズム」の検索件数は、2016年から70%上昇。年間を通じて検索上位だった。
まずはトランプ大統領の就任翌日、全米各地で開催されたウィメンズ・マーチで検索件数が増え、映画「ワンダーウーマン」でも注目され、ハリウッドのセクハラ疑惑と続いたことで爆発的に増えた。
セクハラ問題が「フェミニズム」に繋がるということ自体、日本人には「???」なのだが、実は「フェミニズム」の解釈が、日本は世界と異なる。
日本での「フェミニズム」は、
「女性の社会的・政治的・法律的・性的な自己決定権を主張し、男性支配的な文明と社会を批判し組み替えようとする思想・運動。女性解放思想。女権拡張論」(広辞苑)
と説明され、「男女平等」の文字は見当たらない。
一方、欧米では「性別(男女)平等」の意味が入ってるのが一般的。岩波書店に書き換えを申し入れる署名運動が広がり、2018年1月発行予定の広辞苑の改訂版で説明文を書き換えることになった。
また、昨年、日本人女性へのセクハラに関する厚生労働省(労働政策研究・研修機構が実施、「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する実態調査結果」)の調査で、全体のおよそ3分の1に相当する女性が職場でセクハラ被害に遭っていることが明らかになったときも、日本では結果が報じられただけで、男女平等に言及するメディアはなかったし、調査結果をセンセーショナルに取り上げることもなかった。
しかしながら、数多くの海外メディアはこぞってこの問題を「男女差別」として報道。
「3分の1がセクハラされたって、すごくね?」とばかりに、“Shocking Number(ショッキングな数値)”というタイトルで紹介し、「こんなに多いのは日本の女性が、差別されているからだ!」と、働く女性の男女格差を賃金や雇用形態、管理職の数字などから説明し、「日本には男性のセクハラに耐える女性が多い」といった論調で展開したのだ(「フォーチュン」)(ウォールストリート・ジャーナル)。
セクハラ=男女差別という視点で捉えれば、ゴシップから社会問題に広がっていくだけに、日本メディアの取り上げ方は少々残念に思う。
仕事関係絡みのセクハラ、後を絶たず
いずれにせよ、セクハラ問題に悩んでいる女性は相当に多い。
そのほとんどは「職場での性的な発言、執拗な食事の誘い」と「飲み会での性的な発言、おさわり」。
年齢により受け止め方は若干異なり、
- 20代、30代の若い女性は「会社のオジさんどうにかなりませんかっ!」という怒り、「上司(=オジさん)にセクハラされて…困っています」という困惑や恐怖を、
- 40代以上の女性は「下手に拒絶すると、“自意識過剰”とか思われそうだからやり過ごしているけど……キモい」と不快感を抱いている。
特に仕事関係者の飲み会が増えるこの季節は、不愉快な思いをしつつ、「サラリと流さないと大人気ないと言われる」と、我慢しているのである。
同じように悩む男性もいて、私自身、同世代の女性が男性部下に性的な発言をしているのを何度か目撃し、「ああ、やだやだ。自分もあんな“セクハラオバさん”にならないように気をつけなきゃ」と自戒するわけだが、被害者は「女性」が圧倒的多数で、深刻度、量ともに「オジさん加害者」が大半を占める(だから無視していいと言ってるわけではなく、今回は女性問題を扱う、ということですので、あしからず)。
「職場では真面目なのに、酒が入るとただのスケベなジジイです。大口契約取ってきた女性部下に『○○さんは色気があるから、ハニートラップで落とした』とか言うんですよ。
言われた方は笑い飛ばすしかないし、周りもとりあえず笑う。
そうすると“ウケた”って勘違いするんです。
それで終われば、まだ許せる。でも、ウケると調子に乗る。
自慢なのか悲哀を誘っているのかわかりませんけど、自分の性的な話をして、『○○はどうしてるんだ?』とか聞いてくるんですよ。
そういうときは決まって、私のような“オバさん”に聞くから気持ち悪い。
適当に流してますけど、昔は我慢してたことでも、今は許せなくなってきてることもあるんですよね。かといって上に報告するほどでもない気がして、イヤだけど我慢するしかないんですよね。
どうしたらああいうセクハラ発言って、なくせるんですかね」(51歳 女性)
「なんでああなるのかちっともわからないんです。私は色目を使ったわけでもないし、好意があるような態度を取ったこともない。なのになんか“勘違い”してるみたいで。食事に執拗に誘うんです。仕事上ではイヤな面は一切ありませんし、3、4人で食事に行くこともあります。でも、さすがに2人は……。
以前は連れていってもらっていたんです。ただの上司と部下ですから。それがいけなかったのか。適当に躱してるので、やがて気付いてくれるとは思うんですけど、あんまり無碍に扱うと、左遷とかされそうで……恐いです。
でも、まだ自分はイケるって思ってるってことですよね?(笑)
たぶん55くらいだと思うんですけど……絵文字付きのメールとかくるし…。バブル世代ってやっぱパワフルですね~」(33歳 女性)
前者は商社、後者はメーカーに勤務する女性だ。
いました、枕営業と勘違いするオヤジ
こうやって文字にすると「たいしたことないじゃん」「大して悩んでるようにみえない」と言われそうだが、れっきとした「セクハラ」である。
つまり、セクハラの最大の問題は「これ」。
やるほうとされるほうの意識のギャップが大き過ぎるのだ。だから、いつまでたってもなくならない。
一般的にはセクハラはダメ、女性が不快に思うことをしてはダメ、って分かっているはずなのに、下ネタで笑ってくれる人が1人でもいたら「ウケた」と勘違いし、「エッチな話は誰も傷つけない」だの「セクハラになるのは相手が若い女性だけだ」と、本気で思っているおバカさんもいる。←前者のパターン。
「自分に気がある」と思い込むオジさんもいるけど、さらに踏み込んで「自分と個人的な関係を結びたがっている(いわゆる枕営業です)」と勘違いする権力者や社会的地位の高いオジさんは想像以上に多い。←後者のパターン。
既に時効なんで告白するけど、食事に誘われ、断ることもできずに出かけたところ、
「○○は俺と寝てくれって、札束もってきたぞ」
などと自慢げに語り(何が自慢なのかわからないけど)、足をスリスリしてくるジジイがいたし、
ただ、仕事でお世話になっているから食事に何度かお付き合いしだけなのに(2人きりではない)、
「今から出てこれる? 銀座の▲△で寿司でも食べよう」
と、夜中に電話してきたジジイもいた(そもそも私は寿司はNGです)。
どちらもその業界ではいわゆる“権力者”だった。
「だったら最初から勘違いさせる行動は慎めばいい」と第三者は言うけど、当時は30代。20歳以上年上の男性、しかも“偉い人”に「ノー」とは言えなかった。なので、誰に言うこともできず、必死で忘れようと記憶の奥底に押し込み、「たいしたことじゃない。ちゃんとあしらえたんだから」と自分を納得させた。
40過ぎてからは「なんでアンタの性的な話を聞かなきゃいけなんだよ」といった場面に出くわすことが増え、今思い返すだけで、キモい。マジでキモい。
とにもかくにも女性たちの話や私の個人的な経験から感じるのは、「オジさんたちのコミュニケーション力」の低さだ(すみません)。
職場では、パワハラ、セクハラ、モラハラ、など、ハラハラだらけで部下とのコミュニケーションにビビっているオジさんが、自分のコンフォートゾーンである「飲み屋」に踏み入れた途端、職場でクローズしていたコミュニケーションの扉を全開する。が、何を話していいのかわからない。
そこで、つい「彼氏はいるのか?」というセクハラになりかねない発言をしてしまったり、下品なネタで笑いを取ろうとしてしまったり、カワイイ女性部下が素直に自分の話を聞いてくれると、「ん? ひょっとして……」などと“勘違い”してしまったり…。
結局、女子への免疫不足じゃない?
要するに「女性社員」への免疫の低さが、セクハラにつながっているように思えてならないのである。
中にはしょーもないスケベジジイもいるのかもしれないけど、「そ、そんなつもりなかったんだけど……」とする男性側の言い分と、「ありえない」と口を揃える女性側の相談から考察すると、飲み会のセクハラの原因はオジさんの「コミュニケーション力」という仮説に行き着くのである(女性の方も同じだろ! とここで怒らないでくださいね。今回はオジサン側の話、ですので)。
実は先の海外でも話題になった“Shocking Number”が明らかになった調査(「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する実態調査結果」)には、それを裏付ける結果が報告されている。
まず、セクハラの態様のトップ3は、
- 容姿や年齢、身体的特徴について話題にされた
- 不必要に身体を触られた
- 性的な話や質問をされた(性生活を聞かれた、卑猥な冗談を聞かされた)
で、これらのセクハラの経験率と職場環境との関連を調べたところ……、
【セクハラ経験者が多い職場トップ3】(多かった順)
- 職場の特定の人や係に仕事量が集中している
- 職場の特定の人しかできない業務が多い
- 恒常的に残業や休日出勤が多い
【セクハラ経験者が少ない職場トップ3】(少なかった順)
- 職場にはお互いを助け合おうという風土がある
- 職場は意見が言いやすく風通しがいい
- 職場のリーダーは社員間の業務分担等を良くマネジメントしている
(※「第2-3-2 表 職場の状況別セクシュアルハラスメント経験率(個人調査)」より。表現は調査から一部アレンジしています)
ご覧の通り、常日頃からコミュニケーションが取れている職場では、セクハラが少ないことがわかったのである。
一方、互いにサポートする環境が希薄な“孤立した職場”では、セクハラが多い。
最初に職場の環境ありき
こういった結果を見ると、
「ストレスがたまっていて、セクハラに走るのではないか?」
とすぐにストレスを原因にする人がいるけど、私はそれはナイと思う。
イライラして不寛容になり、攻撃性が増すことはある。なのでちょっとした性的な意地悪というケースが増える可能性は否定できない。
だが、セクハラの経験が少ない職場に共通する、「日常的にコミュニケーションが成立している」ってことをもっと落とし込めば、わざわざ“セクハラになりそうな”きわどい話をしなくとも、共通の話題が存在しているってこと。そして、おそらくそういった職場では、男女差別もない。
互いに敬意を示し、ひとりひとりが能力を発揮する土壌が出来上がっているのである。
さて、と。忘年会シーズン真っ最中。
まずは「自分の職場環境」を上記の質問でチェックし、自分がセクハラしやすい環境いるかどうか確かめてから、「とりあえずビール」してください。……ん? 最近はこれも言わないんだっけ?
『他人をバカにしたがる男たち』
なんとおかげさまで五刷出来!あれよあれよの3万部! ジワジワ話題の「ジジイの壁」
『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)
《今週のイチ推し(アサヒ芸能)》江上剛氏
本書は日本の希望となる「ジジイ」になるにはどうすればよいか、を多くの事例を交えながら指南してくれる。組織の「ジジイ」化に悩む人は本書を読めば、目からうろこが落ちること請け合いだ。
特に〈女をバカにする男たち〉の章は本書の白眉ではないか。「組織内で女性が活躍できないのは、男性がエンビー型嫉妬に囚われているから」と説く。これは男対女に限ったことではない。社内いじめ、ヘイトスピーチ、格差社会や貧困問題なども、多くの人がエンビー型嫉妬のワナに落ちてるからではないかと考え込んでしまった。
気軽に読めるが、学術書並みに深い内容を秘めている。
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この記事はシリーズ「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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