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(写真:PIXTA)

 東京医科大学に端を発した医学部入試での「女性差別問題」が、予想外の展開になっている。

 順天堂大学が12月10日、医学部医学科の入試で女子や浪人生に一律不利な扱いをしていたと発表し、謝罪した。女子受験生の合格ラインは男子受験生より高く設定していたということだが、驚いたのがその理由だ(関連記事:順天堂、入試で一律不利な扱い「女子はコミュ力高い」)。

「長年の経験から女子の面接評価点が高いという結果を得ていた。一般的に大学入学時点の年齢では、女子の精神的な成熟は男子より早く、相対的にコミュニケーション能力が高い傾向にあるため、判定の公平性を確保するために男女間の差異を補正した」

 ……あらあら。いったいこの国のお偉い人たちは、どうなっているのだろう。

 報道でこの「理由」を知った時には、あまりに呆れた内容なので「記者会見で質問攻めにあって、学長がついポロリと口走ってしまったその場しのぎの言い訳なのだろう」と思っていたのだが、そうではなかった。同大学が設置した第三者委員会の調査で、彼らの“本気度”が明らかにされていたのである(調査報告書はこちら
)。

 報告書によれば、多くの教職員から「女子は成熟が早いからコミュ力が高いが、大学に入ると男子も成熟し、能力差が縮小され、解消する。男女間の発達傾向を是正するのに必要だった」という旨の説明がなされた、と。

 併せて、第三者委員会によるヒアリングに対し、「これって、僕たちの思い込みや、経験則だけではないですよ~。医学的見解に基づいているんですよ~。だって、僕たちお医者さんだもん!」とでも言いたいのか、「コミュ力是正」の根拠として学術論文(Sex differences in the course of personality development: a meta-analysis. Psychol Bull. 1991 Mar;109(2):252-66.)を提出したそうだ。

 過去の複数の論文に基づくメタアナリシスを提出しているところがなんとも姑息なのだが(*参照)、論文自体は自我発達の年齢ごとの性差を目的にしているもので、コミュニケーション能力の性差を分析したものではない。確かに、語彙スキルに関する性差への言及はあるが「語彙スキル=コミュニケーション能力」ではなく、「語彙スキル=言語能力」ですらない。

 言語能力は、語彙力、読解力、文章力から構成されるが、「言語能力における性差はほとんど存在しない」というのが長年蓄積された研究から導き出された一貫した見解であり、こちらのメタアナリシスでも同様の結論に至っている(J.S.Hyde and M.C.Linn “Gender Difference in Verbal Ability”. Psychol Bull. 1988 July ;104(1):53-69 .)。

メタアナリシス(メタ分析)とは、同じテーマに関する仮説を検討した複数の研究を、共通の効果サイズに変換し、平均値を算出することによって、「仮説はホントかどうか?」を統計的に検討する手法。

 そもそも順天堂大学医学部のお偉いさんたちは、何をもって「コミュニケーション能力」と言っているのだろうか。コミュニケーションは「言葉のキャッチボール」と言われるように、言語を使い、投げるだけでなく、受け手としての能力が大切なことをわかっているのか。

 大学入試という「公正性」が求められる試験で不正操作を良しとする考え方は到底納得できないし、許されることではない。たが、その一方で「でもさ~、女と男でコミュニケーションって違うよね~」と思っている人は少なくない。

 というわけで今回は、「男と女とコミュニケーションと」というテーマで、あれこれ考えてみようと思う。