“危なそうな人”を作り出しているのは誰か?

 あまり知られていないとは思うが、17年10月から日本でも、パイロットの「疲労リスク管理(FRM)」がスタートしている。

 FRMは09年に起きた米国コルガン空港の航空機事故をきっかけに、事故遺族の運動により欧米でスタートした制度で、そこには「乗員、乗客、住民のすべての命を大切にしてほしい」というメッセージが込められている。

 この事故は米国の短距離国内線で起きたもので、機体が炎上し、住宅地に墜落。乗客乗員49人が全員死亡したほか、墜落現場となった民家で住民1人が死亡、2人が負傷した。その原因は、「機長の過労」が引き金となった単純な操縦ミスだったのである。

 機長・副操縦士は、低賃金(機長の年収は約6万ドル、副操縦士は同1.6万ドル)のためホテルに泊まらず、操縦士用の待合室で仮眠を繰り返していたそうだ。会社のソファで一夜を過ごすのは規則違反だったが、黙認されており、機長たちは事件当日もソファで睡眠を取っていたことがわかっている。

 さらに、ボイスレコーダーや関係者への聞き取りから、操縦士が日常的に疲労に悩まされていたことが判明し、CVR(コックピットボイスレコーダー)には何度もあくびをするのが記録されていたという。

 こうやって書いているだけで怖くなってしまうのだが、1993~2009年に起きた航空機事故で、パイロットの「疲労」に起因した事故は11件だったとの米国国家運輸安全委員会の報告もある。疲れ切ったパイロットの操縦ミスにより、310人もの人たちが犠牲になっているというのだ。

 日本に先立ち、2010年以降、米国や欧州ではFRMが義務化・施行されている。

 FRMを導入すると、事業者は運航乗務員の疲労を考慮するとともに、支障がある場合には乗務させない、運航乗務員は自らが疲労状態を管理する、疲労により乗務に支障がある場合には乗務しない――といったルールを規定に明記しなくてはならない。

 航空会社が「人の命の重さ」をもっと真剣に考え、FRMをしっかりと実施していれば、未然に防げる事件だったのである。

 「再発防止に向けた取り組みを徹底し、信頼回復に努めてまいります」などとお決まりの文句はもう聞き飽きた。“自分”の任務を忘れた“危なそうな人”を作り出しているのは、いったい誰なのかを今一度考えてほしい。

 働いているのは人であり、その働く人に「人の命」がかかっていることを本気でわかってほしい。もっと言ってしまえば、それを考えない航空会社に飛行機など飛ばしてほしくない、というか、飛ばす資格はない、と思えてならないのである。

 もちろん、疲労とアルコール問題との直接的な関係性は、単純に論じるべきものではないのかもしれない。しかしながら、疲れ切った体の癒しや、睡眠問題の解決のためにアルコールに頼ってしまうケースは現実に存在する。海外のエアラインの中には、アルコール検査で引っかかった乗務員には、会社の責任で専門治療を行う会社もあると聞いた。「ただし、それも2回までで、3回目は問答無用で解職」とのこと。

 会社側がまず、然るべき責任を負って就業環境を整備し、従業員のケアを施す。従業員は、その環境下で自らの責務をしっかりと果す。そうした形で、安全のための仕組み作りに努めているのである。

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