部下のキャリアを左右する“最初に出会った上司”
部下(=後輩)は、上司(=先輩)が考える以上に上司の影響を受ける。
特に“最初に出会った上司”は、部下のキャリア人生を左右するほどの大きな影響をもつ存在である。
新入社員は入社後、組織社会化という過程を経ることで会社に適応するが、組織社会化には、“最初に出会った上司”が強い影響を与えると、古くから多くの研究者が一貫して指摘しているのである。
組織に所属する前に自分が期待していた仕事と現実に経験する仕事とのギャップから生じる「リアリティー・ショック」は、上司との関係性によって大きく左右される。組織内での役割が曖昧な部下に対し、上司がどういう手ほどきをするかで、新入社員の“その後”が決まるといっても過言ではない。
実際、私が2002年~03年に新入社員を対象に行った縦断調査でもそうだった。
入社後半年以内に、上司から的確なフィードバックを得られなかったり、与えられた仕事について納得のいく説明をされなかったりすると、新人は自分の役割を見いだせず、組織に適応できない。リアリティー・ショックが改善されず、最悪の場合、うつ傾向に陥った。
一方、出会った上司が的確なフィードバックと、「なぜ、その仕事をやる必要があるのか」「その仕事にはどういう意味があるのか」「うまくいかない時には、どうすればいいのか」といった、具体的な「仕事に役立つ情報」を与えると、リアリティー・ショックが改善され、半年後のワークモチベーションが向上した。
さらに、上司から「どんな生き方を求め、どういう考え方で仕事に取り組んできたのか」を語られた経験を持つ部下は、その後のキャリア意識が高まり、さまざまな問題に対処する力も向上したのである。
上司が経験したことや仕事に対する考えには、その上司でしか語ることのできない真理がある。そこで語られるものは、まさしく人生を背負った生きた言葉。それは上司自身の仕事への向き合い方であり、意志力(Grit)である。
Gritは、気骨、不屈の精神、と訳されることもあるが、ここでの意志力とは「自分がどうありたいか?」「自分がどういう価値観の下で自身のキャリアを形成するか?」といった仕事上での価値観で、前向きに仕事をする心のエンジンだ。
意志力のある人は、何か問題にぶつかったときに「どうやれば解決できるか?」を考え、具体的な解決策を考えて、実行する。
その姿に部下は影響を受け、自らのエナジーに転換するのだ。
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