パワハラ検討会がパワハラの定義を定めた(写真:PIXTA)

 「とにかく遅刻が多い。何度注意してもいっこうに直らない。『電車が遅れた』『乗り換えを間違えた』だの言い訳を繰り返すんです。先日も顧客との打ち合わせの時間に遅れて、相手をカンカンに怒らせましてね。僕も堪忍袋の緒が切れて、かなり強めに叱ってしまったんです。
 そしたらなんとパワハラだと訴えられた。これをパワハラって言われてしまったら、部下の指導なんかできないですよ」

 さて、これはやっぱり「パワハラ」? あるいは「指導の範囲」? どっちでしょ?

 実はこれ、厚労省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」(パワハラ検討会)がまとめた報告書で、「パワハラに該当するか、該当しないか」を判断する具体例として示された事例を、私が口語体にしたものである(詳しくはこちら)。

 正式な記載は以下。

 「遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない部下に対して上司が強く注意をする」

 で、報告書ではこれを、「パワハラ……じゃない」とジャッジ。上司の業務の適切な範囲であり、部下への指導としている。

 その根拠としたのが、パワハラ検討会が決めた「パワハラの定義」だ。次の3つの要素をいずれも満たすものを、新たな「職場のパワーハラスメントの概念」としたのである(「新たな」とした理由についてはのちほど)。

 (1)優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
 (2)業務の適正な範囲を超えて行われること
 (3)身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

 冒頭のケースでは、「部下の遅刻問題」を上司が強く叱責することは、「上司の指導」の一環であり、「精神的苦痛を与える」とは言いがたい。(1)は満たすが、(2)と(3)は該当しない。

 ちなみに「業務の適正な範囲を超えて行われること」とは、「社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上必要ない、又はその態様が相当でないものであること」を意味する。

 具体的には、次のような行為が相当する。
 ・業務上明らかに必要性のない行為
 ・業務の目的を大きく逸脱した行為
 ・業務を遂行するための手段として不適当な行為
 ・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為

 冒頭のケースでは、部下は再三注意されていたにもかかわらず、遅刻を繰り返した。なので、どんなに部下が「あれはパワハラです!」と訴えてもパワハラにならないのである。