実際、数年前に私のインタビューに協力してくれた某大手企業の非正規の方は、17年に「雇い止め」にあった。
 「14年間も働き、自分で資格まで取ってスキルアップしてきたのに……、怒りを通り越して涙が出ました。幸い上司の知り合いの会社で雇ってもらえることになりましたが、この先、死ぬまで職を転々としなければならないと思うと、今優先すべきことが何なのか? 自分でもわからなくなるんです」(本人談)

 氷河期世代の無間地獄。
 17年度から政府は、「就職氷河期世代の人たちを正社員として雇った企業に対する助成制度」をスタートさせたが、支給要件は「過去10年間で5回以上の失業や転職を経験した35歳以上の非正規社員や無職の人」となっている。「10年で5回以上も転職を繰り返した人=問題あり」と判断されるのがオチ。ましてや40代以上が対象になるわけもない。

 こんなアリバイ作りの制度ではなく、早急にこの世代を救済する具体的かつ実効性のある議論を尽くさない限り、路頭に迷い、追い詰められる中高年は増えるばかりだ。

新中間層の抱える不安

 そして、もう一つの「漠然とした不安を抱いている人たち」が、いわゆる新中間階級に属する正社員の人たちである。

 彼らは、
 「今までは50歳以上が対象だった肩たたき研修が、45歳以上がターゲットになった」
 「今までは役職定年は賃金2割減だったのに、4割減になった」
 「今までは55歳で選択していた雇用形態を、53歳で決めなくてはならなくなった」
 と、会社員としての自分の賞味期限が前倒しされている現実を憂い、
 「ホントは誰かに話を聞いてもらいたいのに、相談することもできない」
 「忙しそうにしている妻がうらやましい」
 と不満を漏らす。

 会社という、年齢、役職、職位、職種など、あらゆる「上下関係」を基盤とした組織で長年生きてきた「会社員」にとって、自分が「下」になる現実が耐えられない。
 下の世代からお荷物扱いされ、「他者からの尊敬」という心理的報酬を奪われたことへ喪失感。それは「自分の価値への指標」を失うことでもある。

 人の欲求とは内的より、外的(=他者関係)要因に強く影響をうけるものだが、自分と比較可能な他者(同期や同級生など)の活躍を知れば知るほど、不安だけが募る。

 「今の自分の状況と折り合いをつけなくては」と思いつつも、自分と向き合えない。というか、とりあえず経済的な心配もないし、やるべきことはあるので、向き合わないで済んでしまうのが「会社員」という存在なのだ。

 その反面、彼らは「このまま腐ってなるものか」という気持ちももっているので、何もできない自分に負い目を感じ、
 「でも、会社に残った方が給料いいし」
 「転職しても大して変わらないし」
 と自分を慰める一方で、周りに嫉妬し、周りに壁を作り、自分のふがいなさを不機嫌な中高年を演じることで紛らわし、孤立していくのである。

 私はそんな彼らの話を聞くにつけ、50歳以上=使えない と線引きされ、先輩たちのキャリアパスが全く参考にならない雇用環境に投じられている中高年男性たちを気の毒に思いつつも、20年以上ある残りのキャリア人生を消化試合にしてどうする? とじれったくなる。

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