どんなに看護師さんや介護士さんが一所懸命やっていても、不幸にも事故が起きてしまうことはある。どんなに「トイレに行くときは声をかけてください」と伝えていても、頭より体がフライングし、気づいて「あっ!」と声をかけたときには……、ということは、日常的に高齢者と接している人は経験したことがあるのではないか。少なくとも私は施設を訪問するたびに何度も目撃したし、自分の親にも同様のことが起こり、冷やっとした経験がある。

認知症の患者の3割は身体拘束されたことがある

 いったい「見守りの義務」とはどこまでのことを言うのか? 確かに転倒による事故は不幸な出来事ではある。だが、「事故=施設の責任」という空気が社会に熟成されてしまうと、施設側は予防線を張らざるをえない。
 高齢者の自由に歩く権利、自由に動く権利は奪われ、最悪の場合、事故防止策という名目で、「身体的拘束」が正当化される。

 冒頭の判決の報道でこんなことを懸念していた折も折、これまでほとんど明かされていなかった一般病院での「拘束の実態」が、東京都医学総合研究所と国立がん研究センターの研究チームの分析で明らかになった。
 なんと「認知症患者の3割は身体拘束されたことがある」とされ、拘束の主たる理由は「事故防止」だったことがわかったのである。

 調査は、17年、全国の一般病院を3466施設(ICUや精神科病院は除外)を対象に行なったもので、認知症かその疑いがある入院患者2万3539人のうち、28%にあたる6579人が、拘束帯やひもなどを使った身体的拘束を受けていたのだ。

具体的には、

  • 「車いすに拘束帯などで固定」13%
  • 「点滴チューブなどを抜かないよう(物をつかみにくい)ミトン型の手袋をつける」11%
  • 「ベッドからの転落防止で患者の胴や手足を縛る」7%
  • 「チューブを抜かないよう手足を縛る」5%
  • 「 徘徊防止で胴や手足を縛る」4%

 身体拘束は本来、意識が混乱した患者の生命や安全を守ることが目的で行われるものだが、研究チームは、
 「看護師らの人手が不足している上、安全管理の徹底を求める入院患者の家族などに配慮し、事故防止を最優先する意識が働く。その結果、他の対策を検討することなく、拘束を行いがち」 と考察。

 その上で、「認知症の高齢者は、身体拘束を受けると、症状が進んだり筋力が低下したりしやすい。不必要な拘束を減らす取り組みが求められる」と指摘している。