「幸せについて考えなくなっていることが“幸せ”かな」

河合:自分の分身と考えればいいですか?

矢野:う~ん、それもちょっと違います。幸福感が主観的なもので人それぞれのように、まさに環境とのインタラクションも、背負っているものも、信じているものもそれぞれ違うわけですね。

 こういうことすべてをマネージすることは、人間にはとてもできない。そこであらゆるデータを集めてサポートをしてくれるのが、テクノロジーで。AIはあくまでもテクノロジーでしかない。人がいたり生物がいたり新人類がいたりするわけじゃないんです。

河合:心理学では認知行動療法という、自分が見逃しているものごとの側面や、無意識の自己感情を気付かせる手法があるんですが、ちょっと似ているかもしれないですね。認知行動療法の最大の利点は、やはり自分が基本になっていること。自分のことを客観的に見つめることで、自分が変わっていく。それとまったく同じという考え方でいいんでしょうか。

矢野:はい。同じだと思います。いわゆる会社の中のさまざまなベストプラクティスだったりルールだったりは、たいてい一律ですよね。こういうことがいいとか、会議は1時間以内にしなさいとか、5人以内でやりなさいとか。

 でも実は、状況によって全然そんなことはなくて、一律なわけがない。人間関係も非常に違いますし、性格も違えば背負っているものもバックグラウンドとして知っていることも違う。業務だって、一人ひとりそもそも違いますよね。

 だからこそデータを測って、データからその人の今日の状況においてはこういうことが大事ということが、データではこう出ていますよということを教えてくれているテクノロジーがあるわけです。AIというのはそのために存在するのであって、技術の進歩でデータを取る手段も多様化し、コストも安くなっているので、活用しない手はないと思います。

河合:ただ、経験則が狂うことってありますよね? 

矢野:大丈夫です。それもまたデータになってアドバイスが変わりますから。どんどん変わっていくので問題ないです。

河合:なるほど。やっとわかりました! ところで、矢野さんにとって、幸せってなんですか?

矢野:難しいですね。私、昔はですよ、幸せってこういうものだとか、幸せって何だろうとかとよく考えていました。やっぱり結構、しんどい時期があったんです。いろいろな仮説をたてて、試すけどうまくいかない。結果を出せないわけです。社内で肩身の狭い思いもしましたしね。

 でも、今振り返ってみると、いろんな失敗が今につながっているし、アドバンテージにもなっているわけです。で、ふと気付くと、幸せについて考えなくなっていることに気付いた。

 つまり、あんまりそういうことを考えなくなるということが幸せなのかな、と。

 ゴールのある山登りではなく、むしろ波乗りをイメージするようになりまして、今日この日をとにかく必死に生きて、波がやって来たら、何で乗るんだみたいなことを考えずにとにかく乗る。きっとどこかでは考えているだけど、あんまりとらわれずに、今日この日のこの出会いに、乗っていけばいいんじゃないかなぁって、思っています。

河合:つまり、動けってことですね。アレコレ言ってないで、とにかく必死で動け!動き続けろ!って(笑)

矢野:そうです。動き続けることです。止まらないという(笑)。それで、先が見えないからどうしようとかって考えるんじゃなくて、動き続ける。

河合:はい、でも、ときには止まって、フ~ッと休憩するのも、アリですよね?

矢野:アッハハ。そうですね。

河合:私の今日の動きには、たくさんの揺らぎがあったと思います! 幸せな時間をありがとうございました!

この記事はシリーズ「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。