「もっともっとチューしたくなるってヤツですね」

矢野:ありがとうございます。実は、もっとおもしろいこともあるんです。「去る人は日々に疎し」といいますけど、会わなくなるとどんどん会わなくなりますよね。あるいは会いだすとまた会ったりしますよね。あれって実は体の動きの分布とまったく同じリズムになっていまして、すなわち会えば会うほどまた会いたくなると。会わなくなるとどんどん会わなくなるという。

 先ほど話したように、揺らぎは、大きいほどそれが長く続きます。それと同じなんです。

河合:ああ、それってなんとなくわかります。人には、気持ち良かったことを繰り返したいっていう脳の動きがありますから。チューして気持ち良かったから、もっともっとチューしたくなるってヤツですね。あっ、すみません。くだらない話でした(苦笑)

矢野:大丈夫ですよ(笑)

河合:一度会うと、その後もなぜか「また会ったね」みたいなのって、ひょっとして、あれも理論物理の窓からみると、偶然じゃなかったりしちゃいます?

矢野:それは偶然だと思いますが、偶然の中に、非常に共通の法則性があります。揺らぎが大きいとそれが持続しやすいのと同じです。偶然と思われているものにも法則性があって、物理式で読み解けるんです

河合:自分でふっておきながら……、物理式の話になると、また私の脳はカオスに突入するので、偶然だけど偶然じゃないという理解でとどめておきますね(笑)

矢野:じゃあ、そうしておきましょう(笑)

河合:今回リリースされた日立のウエアラブルセンサーですが、これを装着すると働く人の幸福感が向上するように、誰々に話し掛けてみろとか、何とかしろとか、具体的な行動を装置内のAIがアドバイスするわけですよね?

矢野:はい、そうです。

河合:で、このニュースが流れたときに、私、たまたまコメンテーターでテレビ番組に出演していたのですが、「何で仕事していて幸せにならなくちゃいけないんだよ」という反応が結構、あった。 

 なので、社員が幸せになるとモチベーションが高まるので、生産性にもプラスの影響がある。しかも、それは企業にとってのプラス要因ではなく、能力発揮の機会があったり、それとか昇給であるとか、昇進であるとか、“幸せへの力”なんだっていう説明を、まぁ、それは私の考える幸福感、つまり「幸せへの力」なんだって説明したら、なるほど、ということになった。

 ところが、それをAIに言われるのはちょっと、というか、そこまでAIにコントロールされたくないという意見が根強かったんです。

矢野:それは極めて重要なところです。AIは結構、今ブームになっているじゃないですか。で、擬人化されて語られることが多い。最大の間違いがまさにそこにある。AIは擬人化しちゃいけないんです。

 たとえば、今回のセンサーはあくまでも自分がやったデータ、自分がこういうことをやったら周りがどんな反応をしたといったあらゆる過去のデータに基づいています。こういうことをやっているときとそうでないときには、こんな差がありますよ、というエビデンスを一人ひとり個別に示しているだけです。

 自分が残した足跡の中に潜むものだけど、人間じゃ気付かないし、そのままどんどん捨てていっているもの。ただ単に、それを引き出しているというだけです。

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