「休憩時間のおしゃべりが盛んな日は受注も上がる」
河合:人は環境で変わる。めちゃくちゃ健康社会学的論理ですね。無意識の体の動きのパターンに、その人の幸せがすごく映っているってことですね。
矢野:河合さんのご専門の健康社会学というのは、そういった学問なんですか?
河合:はい。人とその人の周りの環境との関わりにスポットを当てます。社会の窓から人の心をのぞく、これが健康社会学です。つまり、本人が周りに影響を受けている場合もあれば、その本人が周りに影響を及ぼしている場合もありますよね。ただし、相関はあっても因果関係は、それだけではわからない。
矢野:なるほど。確かにそうですね。活気あるチームにいると自分もなんとなくやる気が出てきますが、ものすごいやる気ないメンバーがチームに入ることで、そのチーム自体の活気がなくなることもある。
河合:はい、そのとおりです。腐ったリンゴは周りを腐らせる。でも、腐る環境があるからリンゴも腐る。だから縦断的に調査していかないと、因果関係はわからないんですよね。
ただ、社員が溌剌と元気に働いている会社は、社員同士のつながりがあります。社員同士の心と心の距離感が近い。そういった会社では、例外なく挨拶が飛び交っているんです。
矢野:挨拶というのは?
河合:「おはよう」「おはようございます」、「こんにちは」「ご苦労様」、「行ってきます」「おう、がんばってこいよ!」といった挨拶を社員同士が廊下ですれ違うときに交わしている。挨拶という、極めてシンプルなコミュニケーションを大切にしているんです。そして、そういう会社には、いい無駄がある。
矢野:具体的にはどういう無駄なんですか?
河合:たとえば、社員が一服できるような空間がオフィスのど真ん中にある。昔の給湯室みたいな空間です。あるいは運動会や部活があったり、社員旅行があったり。「そんなの無駄じゃん」ってカットされそうなものを大切にしています。無駄話、無駄な時間、無駄な空間という、人がつながる無駄が職場にあるんです。
矢野:いや~、それおもしろいですね。実は、私たちのセンサーをコールセンターの人たちにつけていただいた実験があるんですが、受注量の多さは休憩時間での会話と相関がありました。休憩時間に会話が活発な日は受注量が多くて、少ない日に比べると34%も受注率が高いというようなことが出ているわけです。会話は体の動きにも表れるので、加速度センサーでとらえられる。
幸福な集団ができると、人間としての能力のパフォーマンスが上がるということを示していると我々は解釈しているんですね。店舗でも従業員のハピネスが高い日にはそうでない日に比べて15%も売り上げが高くなるという結果も出ています。
河合:幸せは個人的な感情ですけど、人はひとりでは幸せになれないんですよね。
矢野:ええ、そうだと思います。ひとりでは幸せなれない、というのはまさしく同感です。それが無意識の動きにも表れているってことなんです。
河合:しかも、それが生産性と直結している。
矢野:そうです。人間の能力自体が、幸福によって発揮のされ方がすごく変わるんだと、私たちは考えています。
河合:ああ、それは私もいつも書いていることです。つながりの重要性です。でも、目に見えないつながりが、「動き」に表れることを見つけたのってめちゃくちゃスゴイ発見ですよね!
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