外国人労働者の実態はどうなっているだろうか(写真:PIXTA)
テレビでは女性アナウンサーが興奮気味に「政府、外国人労働者対策、大転換!」と報じ、新聞の社会欄には「ベトナム実習生ら相次ぐ死」との見出しが掲載され……、このところ連日連夜、「外国人労働者問題」なるものが報道されている。
あまりに多く、見逃した方もいらっしゃるかもしれないので、ここ数日間、話題になった問題をふり返っておく。
10月6日、日立製作所が笠戸事業所で働くフィリピン人技能実習生のうち、20人に解雇を通告していたことが分かった。その後、さらに20人が解雇されることがわかり、実習生側は雇用契約が3年間であり不当解雇だと主張。残り期間の賃金が補償されなければ、日立を相手取り損害賠償を求めて訴訟を起こす方針と報じられた。
また6日夜に放送されたテレビ番組に対し、「人種や国籍等を理由とする差別、偏見を助長しかねない」とする意見書を外国人問題に取り組む弁護士らがテレビ局に提出。
番組のテーマは「強制退去」で、不法占拠や家賃滞納の現場を紹介する中で、外国人の不法就労なども取り上げたものだった。
弁護士側は、「技能実習制度の問題点や、収容施設の医療体制の不十分さ、自殺者が出ていることに番組が一切触れなかった」と指摘。「外国人の人権への配慮が明らかに欠如する一方、入管に批判なく追従し、主張を代弁しただけの、公平性を著しく欠いた番組」だと批判している(参考記事はこちら)。
一方、政府は11日、外国人労働者の受け入れ拡大に向け、19年4月の導入を目指す新制度として、新たな在留資格として「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類を創設。1号は「相当程度の知識か経験」と生活に支障がないレベルの日本語能力を取得条件とし、上限5年の在留資格を与えるが、家族の帯同は基本的に認めないという。
翌日の12日には、熟練技能が必要な業務に就く「特定技能2号」には実質永住権を与えると発表した(冒頭のニュース)。
ご存知のとおり、政府はこれまで原則認めてこなかった単純労働に門戸を開放し、25年までに外国人労働者を50万人超増やそうとしている。
が、やれ「技能実習生だ」、それ「EPA(経済連携協定)だ」、ほれ「国家戦略特区による外国人の受け入れだ」、これ「留学生30万人計画だ!」などなど、人手不足を補うための制度は次々と打ち出すけど、あくまで「人手不足に対応する処方箋」であって「移民政策」ではないと断言。
OECD加盟35カ国の最新(15年)の外国人移住者統計で、日本への流入者は前年比約5万5000人増の39万1000人。ドイツ(約201万6000人)、米国(約105万1000人)、英国(47万9000人)に次ぐ、堂々の4位。
国連などの国際機関では一般的に「1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住」と定義しているので、「日本は世界4位の移民大国」となる。
にもかかわらず、「わが国に移民はいませんし、今後もいません」という大いなる矛盾のもと、「日本に来てね、住んでね、働いてね、低賃金だけどよろしくね!」と恥ずかしげもなく豪語しているのである。
奇しくも2年前の16年12月、甲府で生まれ育ったタイ国籍の高校2年生が、東京高裁から「強制退去処分取り消し請求」を棄却されたことがあった。
少年の母親は1995年9月、タイ人ブローカーに「日本で飲食店の仕事を紹介する」と言われて来日。実際には全く違う仕事を強要され、やがて不法就労者になり、13年に出頭し、14年に強制退去処分を受ける。母親は控訴せずに帰国し、少年だけが控訴していたのである。
日本は「目に見えない鎖国状態」にある
このニュースはこちら(「外国人歓迎」と言いつつ鎖国続ける嘘つき日本――いまだ変わらない「仕方ないから外国人で」的差別意識――)でも取り上げ、
「日本人であれ、外国人であれ、『労働』するためだけに人は存在するわけじゃない。どんな人にも生活があり、大切な家族がいる。母親であり、父親であり、子どもでもある。
そんな当たり前が、「外国人」という接頭語が付けられた途端、忘れさられる現実が日本にはある。外国人労働者となった途端、『モノ』のように扱われてしまうのだ」
と書いた。
これに対し、コメント欄は大炎上。
「低賃金がイヤなら母国に帰ればいい」
「犯罪が増える」
「オマエはメルケルか」
「日本語をまともに話せないなら、日本にいる資格なし」
「低賃金労働者の人権を語るなんて聖母マリア気分か」
「あんたが外国人ベビーシッターでも家政婦でも雇ってみればいい。自宅の鍵をあずけ、家財もそのままで」
etc.etc……。
私の文章が稚拙だったのが原因かもしれない。が、批判コメントの8割超が、私のコラムを批判しながら、外国人労働者の「人権などどうでもいい」と書いているようで、「日本は目に見えない鎖国状態にある」と改めて痛感し、正直悲しかった。
過剰なまでの多文化共生アレルギー。外国人は「よそ者=集団の内部に存在する外部」であり、「一緒に働く仲間」として受け入れる必要はない。そんな社会の空気が、政府が断じて「移民」と認めない姿勢に影響を与えているのでは、と思ったりもする。
そこで、今回は「外国人労働者の実態」を、ストーリーではなく、客観的な数字で詳細に捉えてみようと思う。
というのも、コメント欄炎上から2年の間、外国人労働者がいる企業をあちこちでみて感じたのが、「ちゃんとやっている企業はちゃんとやっているし、ひどい企業はとことんひどい」ってこと。
加えて出身国によっても日本人の「まなざし」は変わる、という悲しい現実もある。
そこで「外国人労働者」を主語にすることをやめ、「企業」にスポットを当てれば、違う角度からこの問題を考えることができるのではないか、と考えた次第である。
参考にするのは、日本政策金融公庫総合研究所が18年に発表した「中小企業における外国人労働者の役割~『外国人材の活用に関するアンケート』から~」と題された、調査結果だ。
対象は、日本政策金融公庫国民生活事業および中小企業の融資先のうちの、法人1万5970社である(調査実施は16年8~9月)。
企業から見た外国人労働者
調査結果を子細にみてみるとステレオタイプになっている部分も読み取れるので、まずは結果を要約するのでご覧ください。
【どんな企業が、外国人労働者をどのように雇用している?】
・全体の13.3%が外国人を雇用し、業種別では「飲食・宿泊業」25.5%、「製造業」24.3%、「情報通信業」13.8%。
・外国人を雇用している企業は、従業員規模が大きいほど多い。「4人以下」の企業では2.1%であるのに対し、「100人以上」は51.1%。
・「正社員」として雇用している企業は6割で、平均雇用人数は2.8人。
・「非正規」として雇用している企業は4割(平均5.0人)、「技能実習生」は2割(平均5.8人)。
【どういう人たち?】
・「中国」が38%で最多。次いで「ベトナム」18%、「フィリピン」7.7%。
・男性が女性より多い(56.4%)。
・男性は「技能実習生」が7割、女性は「非正規」が6割。
・最終学歴は「大学・大学院(国内外含め)」が4割強。
・技能実習生は「24歳以下」「25~34歳」で全体の9割をしめるが、「45歳以上」も1.4%いる。
【どんな仕事? 賃金?】
・「すぐにできる簡単な仕事」は正社員5.2%、非正規36.7%、技能実習生10.5%。
・「多少の訓練やなれが必要な仕事」は正社員32.5%、非正規46.1%、技能実習生62%。
・月給は「正社員」は「22万円超」が6割、「技能実習生」は「18万円以下」が9割以上。
・時給は「非正規」の4割が「901~1000円」、「技能実習生」の5割が「850円以下」。
・「技能実習生がいない企業」の33.2%が、正社員募集時の月給提示額を「22万円超」としているのに対し、「技能実習生がいる企業」では12.5%と激減。
【なぜ、外国人を雇う?】
・「日本人だけでは人手が足りない」が28%、「日本人が採用できないから」が10.4%と、人手不足によるものが多い。
・「外国人ならではの能力が必要」23.3%、「たまたま外国人だった」18.2%と、人手不足以外も少なくない。
・「技能実習生」を雇用する理由のトップは「日本人だけでは人手が足りない」(42%)、次いで「日本人が採用できないから」「外国人の方が利点が多いから」が18.8%。
【外国人を雇っている企業と雇っていない企業の違いは?】
・「正社員」「非正規」「30歳未満の従業員」「高度スキル」のすべてで、「足りてない」とする企業の割合が多い。
・「外国人雇用企業」の5割で最近5年間の売上高が「増加」、採算も4割が「改善傾向」だった。
・「外国人雇用企業」と「非雇用企業」で、「正社員」の賃金を比較すると、「外国人雇用企業」の方では「18万円以上」が7割であるのに対し、「非雇用企業」では6割。
・「外国人雇用企業」と「非雇用企業」で、「正社員」の労働時間を比較すると、「外国人雇用企業」の方では「週40時間未満」が8割超であるのに対し、「非雇用企業」では7割。
【今後はどうですか?】
・「外国人雇用企業」では「外国人かどうかは考慮しない」が39%でトップ、次いで「現状程度は雇用したい」(36.4%)、「増やしたい」(19.7%)。
・「外国人非雇用企業」では「雇用するつもりがない」が47.3%でトップ、次いで「よい人がいれば」(31.1%)、「ぜひ雇用したみたい」17.1%。
さて、と。いかがだろうか?
技能実習生=低賃金労働者、になっている
これらの結果から明白になったのは、「技能実習生=低賃金労働者」であり、「技能実習制度」はもはや不要だ。
厚労省のHPによれば、
「外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力することを目的としております」
とあるが、実習生が「日本」に協力してくれているのだよ、奴隷的な扱いをうけながら。
そもそも「実習生」なのに「解雇」とか、「実習生」なのに「過労死」とか、まったくもって意味不明。16年度に事故や病気で亡くなった技能実習生・研修生は28人。脳・心疾患が8人で、全体の3割が「過労死」と考えられる(「国際研修協力機構」の報告書)。
「特定技能1号」は技能実習生から移行することを基本形と想定しているが、どこが「開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』」なのか。「出稼ぎ労働者」という実態にあった呼び名にすべきだし、「外国人労働者」ではなく、「アジア人労働者」とした方がいい。
今回の調査結果で、個人的に興味深かったのが「非正規雇用」が多いことである。
報告書に記されていた「外国人従業員の在留資格」から推測すると、大半は日系人の可能性が高い。日系人労働者の問題は20年以上前から指摘されているが、解決されていないことが確かめられたかっこうである。
また、今後の外国人雇用について、「外国人かどうかは考慮しない」が4割もいることから、企業が欲しがっているのは「日本経済の底辺を支える労働力」であり、労働の冗長性を担保するための存在であることは明白である。
さらに、少々拡大解釈かもしれないけど、「外国人雇用企業の方が非雇用企業に比べて正社員の賃金が高く、労働時間が短い傾向がある」という結果は、「底辺を支える労働力」とは、正社員が健康でいる役目も担っていると捉えることもできる。
海外から労働力を集めた方が初期費用はかかるが、その費用が債務として労働者にふりかかっている間は拘束できる。だからして、「外国人労働者問題」ではなく、「奴隷労働者問題」。
いや、「底辺労働者問題」とした方が、底辺に追いやられている日本人の労働者も救うことができる。これらは社会福祉政策とリンクさせて考えるべき問題だと思うのだ。
実際、オランダやデンマークなどの福祉国家では、企業が要求する柔軟性のある雇用制度を実現する代わりに、その負担をパートタイム正社員という形で、企業も社会保障費を負担。企業から排出された失業者の再就職に必要な技能の習得を、国や社会が引き受けることで、冗長性問題は解決された。
そのための「同一価値労働・同一賃金」であり、パートタイマーにもフルタイムにも、年金、保険などを同様に取り扱うようにしたのである。
かたや日本はどうだろうか。
自分たちが「欲しいもの」を手に入れる手段はあれこれ模索するけど、その結果生じる問題はおきざりのまま。「奴隷地獄」に耐えられず実習生が脱走し、不法滞在し、窃盗などの犯罪をおかしようものなら、「外国人が増えると治安が悪くなる」と他国責任にすり替える。
おまけに、私のようなポンコツが「外国人を犯罪に走らせてしまう環境」を語ろうものなら、「同じ環境で働いている全員が犯罪を犯すわけじゃないだろう!」と一斉に攻撃する始末だ。
外国人は日本の究極の弱者
あるテレビ番組で、日本に住む外国人の大学教授が、
「外国人って、日本の究極の弱者ですよ」
と嘆いていた。
……ホント、その通りだと思う。
弱者のいちばんの問題は、多数派から「よそ者」扱いされる点だ。
多数派のメンバーは自分たちの地位の高さの見せしめに「よそ者」を差別し、「内部の敵」として扱い、排除する。
外国人労働者、必要なのですよね?
ならば、彼らが下級労働者や下級市民に固定化されぬよう、社会の仕組みをいま一度議論してほしい。
そのためには私を含めたひとりひとりが、自分世界とよそ者を区別することがあってはならないことだ。
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