そして、おそらく私がここで憤っていることを、「感情的なことをいうなよ。長時間労働したって全員が死ぬわけじゃないだろ。俺もやってるけど元気だよ。第一、そんなにストレスなら辞めればよかっただけだ」などとのたまう人が少なからずいる。

 長時間労働しても俺は大丈夫、だって?

 なるほど。確かに。そのとおりだ、今はね。
 たまたま、まだ、死んでないだけ。ただ、それだけだ。

 そして、世間には「長時間労働はダメだよ。ホントトップ次第なんだよね」と言いつつも、自分が寝る時間がないほど忙しいことを、どこか自慢げに言う人たちも少なくない。

 奇しくもNHKの過労死事件が明るみになったその日。
 元電通社員で「青年失業家」の田中泰延さんのコラム「ひろのぶ雑記」が、SNSで話題となった(こちら)。

 ブログは高橋まつりさんの事件のことを書いたもので、

 「私は古巣のことを悪く言うつもりはサラサラない。逆に、大きな、悲しい事件があり、いろいろな社会的制裁を受け、変革を余儀なくされている電通という会社をことさらに擁護する立場にもない。
 そもそも、わたしは電通を卒業したわけではない。それは、定年退職したり、役員になって退任したり、その職務を全うできた者だけが使える言葉だ。私は、『中退』であり、ドロップアウトした人間だ」

 という文章から始まっている。

  • 電通は忙しすぎたこと
  • 何度もクライアントから戻ってきた営業担当の「明日までに再提出しなければならない」という言葉で、プライベートの予定がぶっ飛んだこと
  • 24年間の会社員生活で、1か月以上の入院を4回もすることになったこと

 などがリアルな表現で書かれ、
 高橋まつりさんが亡くなる数ヶ月前に、深夜3時ごろ、会社で徹夜作業をしていたときに、「まだ会社にいる しんどい」といった内容のTwitterを見て、 「おれも会社で徹夜 がんばろう」と言葉を返してしまった、と。

エールを送ってしまった悔悟

 そのTwitterこそが高橋まつりさんのもので、

 「私は、彼女の訃報を知ったとき、過去を検索して自分のそのツイートを探し出し、慌てるように消去した。慚愧の念が私を包んだ。後悔してもしきれない」

 と告白されている。

 自分も心身を酷使しながらやっているときに、悲鳴をあげている人に「自分もがんばってる。あなたもがんばって」とエールを送ってしまうことは誰にでもある。

 「お互い大変だ。でもさ、もうちょっとだけがんばろう」と。

 田中さんがこの「エールを送ってしまった自分」を後悔されているお気持ちは、痛いほど伝わってくる。

 ただ、大変失礼な物言いを承知で言えば、問題はエールを送った行動にはない。
 「私は、『中退』であり、ドロップアウトした人間だ」と田中さんに言わせてしまう組織にこそ、大きな問題がある、私にはそう思えてならない。

 ブログには、この田中さんが体調を壊して入院をしていたときのことが書かれていた。

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