今回は「リーダーと権力」について考えてみる。
連日連夜の“情報劇”に、少々食傷気味かもしれないけれど、小池百合子都知事を巡る“騒動”から、権力について深堀りしようと思う。
まずは、先週28日。小池氏は日本記者クラブで会見した際に、
「私が国政に戻るんじゃないか、と今日もテレビでは朝からそのことだらけ。『(都知事の)後継は誰が出る』までにぎわっている。だけど、私は今の国会が変わらない限りは、都政でしっかりと頑張る。でなければ、同じことを繰り返すだけ。私のエネルギーは都の方に置き、東京を引っ張っていくことが日本全体のプラスになっていく」
と言っていたけど、実はテレビがこぞって「小池百合子は国政に戻るぞ!」とフィーバーし始めた2日前の9月25日。
浜松町界隈では、既にその話題で持ち切りだった。
25日といえば、午後から“子パンダ”が、夕方からは安倍首相が主役になる予定が、突然の希望の党立ち上げの記者会見で、“小池劇場”のゴングが鳴ったアノ日。
「選挙の公示日となる10月10日の前日の9日に、小池百合子都知事が、希望の党の比例区名簿トップで衆議院選に挑む」
という情報がいの一番に飛び込んできたのである。
情報ソースは、「インサイドライン」の編集長、歳川隆雄氏。
「インサイドライン」とは、日本の政治、経済のインサイド(内幕)情報だけでなく、東アジア(中国・台湾、朝鮮半島)、ロシア、米国に関するインサイド情報を発信する日本唯一のニュースレターで、新聞・テレビなどマスメディアが伝えない(or 伝えられない)一次情報が盛り沢山…とされている(インサイドラインのホームページより)
その日、私は毎週出演しているラジオ番組の生放送が15時半からのオンエアで、番組は小池氏の希望の党立ち上げの記者会見からスタート。
で、番組冒頭に電話出演した歳川氏が、“とっておきのネタ”として、先の「10月9日出馬表明」を伝えてくれたのだ。
歳川さん曰く、「女性初の総理大臣に絶対になりたい」という“野心”は半端なく強く、「これまでの行動はすべて“女性初の総理”になるための布石だった」と。
生放送スタジオは大興奮
「小池さんはずっと、年齢も近いヒラリー・クリントンの戦い方を研究してきた。ヒラリーさんが昨年、トランプさんに破れたときの年齢が69歳。女性の年齢のことを言うのは失礼だが、小池さんは現在、65歳。つまり、国政に挑むラストチャンス。究極の後出しジャンケンで、公示日の前日の9日に、希望の党の比例名簿トップで衆議院に挑む」
と断言した。
番組では当然ながら、小池氏への批判の嵐。
安倍首相の解散についてアレコレ議論する予定だったのが、突然の主人公の変更、マジか? と言葉を失う“事情通”の話に、番組も私も興奮モードで大いに盛り上がった。
改めて言うまでもなく豊洲も、築地も、でもってオリンピックも、何一つ解決していない状態で、「まさか本当じゃないよね。頼むから都知事の仕事、ちゃんと最後までやってくれよ」と、出演者もリスナーさんも呆れ果てた。
が、その後時々刻々と情報が更新され、小泉元首相の都庁訪問、民進党との連携、連合との会談 etc etc……。
アウフヘーベン、インシャラーと、質問への回答を煙に巻き、リセットという若者が食いつきそうな言葉を乱用し……。
まだ、予測の段階ではあるけど、“念入りに練られた筋書き”に感服している。
「勝負勘がすごい、女は恐い、女は度胸がある」――、
メディアにマイクを向けられた政治家たちのため息混じりのコメントも、
「小池さんが堂々と党首として出てくるべき」――、
といった他党の政治家たちのコメントも、
小池氏は、ずっとずっと前から、何十年も前から、政治家に用意された最後の椅子に座れるように、周囲がお膳立するストーリーが出来上がるように、虎視眈々と狙っていたんじゃないか、と。
つまり、メディアも政治家も、そしてひょっとすると私たちも、小池氏にコントロールされているかも? なんて妄想までひろがり、あっぱれというかなんというか。ちっとも好意的に受け止めることにはできないのだが、「この混乱した状況で、次はどんな手を打ってくるのか」と、まるでドラマでも見ているような気分にさせられている。
(※上記の「比例名簿」の件は、28日(木曜日)に報ステも「空欄になっているので、小池さんが入るのではとの情報がある」と伝えていた)
ちなみに小池氏の後任(都知事)に名前が上がっている希望の党のメンバーでもある前神奈川県知事で参議院議員の松沢成文さんは、件のラジオ番組に歳川さんのあとに電話出演し、
「小池さんの国政復帰は……さすがにないと思いますよ。ものすごい批判を浴びることはわかっているはずだし…。少なくとも私はそういった話は一切聞いた事がありません」
と、かなり動揺していた。
いずれにせよ、
「希望を皆さんに抱いていただけるように経済への希望、政治への希望、暮らしへの希望、家計への希望、教育への希望、すべての希望をこれからしっかりと訴えたい」(28日 日本記者クラブの会見にて→こちら)――
権力者はたいてい狡猾だ
ふむ。自分の希望がすべてなのだな、きっと。
そして、「都知事を途中で投げ出すなんて無責任だ!」と都民からいっせいに攻撃をされても、
「国政に関わることが、都政にプラスになる」
だのなんだのと、正当化するに違いない。
権力者は常に狡猾で、自分が自分の味方になる術も心得ていて、目的のためには手段を選ばないのではなく、あらゆる手段を吟味し、野心を果たすための「最適な手段」をチョイスする能力も高いのである。
なんだか書いているだけでずっしり疲れてしまうのだが、権力者の狡猾さはいくつもの心理実験で確かめられている。
例えば、ある研究では「約束の時間に遅れそうだからスピード違反でクルマを走らせる」という行為について、「権力のある」グループと「権力のない」グループに分けて評価をさせたところ、権力のあるグループに属する人たちの多くが、「自分がスピード違反する行為」を「仕方がない」と回答。
権力を持つ人間は、同じ行為を他者がやったときには、「法律に違反するなど、許せない行為だ!」と厳しく非難するのに、自らの行いには寛容であることが示されているのである。
今から15年ほど前の2003年。
“Power is the Great Motivator”というタイトルの論文が、話題となった。
執筆者は米ハーバード大学名誉教授 D.C.マクレランド。
長年、モチベーション研究に従事し、1976年に「作業場における従業員には、達成動機(欲求)、権力動機(欲求)、親和動機(欲求)の3つの主要な動機ないし欲求が存在する」という欲求理論を提唱した心理学者だ。
マクランド博士はこの論文で、優れたリーダーには「権力動機(欲求)」が必要不可欠と説き、「達成動機(欲求)」の高さこそが成功のカギとしてきたリーダーシップ理論に警鐘を鳴らした。
「伝統的な組織心理学では、権威主義的なリーダーは悪弊とされてきたが、『権力を得たい、高い地位に就きたい』という欲求を持つ人こそが、リーダーとして成功者になる」とし、誰もがなんとなくわかっていたけど、なんとなく認めたくなかった現実を、実証研究で明らかにしたのである。
調査は、米国の大企業25社の管理職500名を対象に実施。
まず最初に、職務に関する質問用紙に回答を記入してもらった。
さらに、さまざまな仕事の場面を示す絵についてストーリーを書いてもらい、これらをコード化し、得点を算出することで、以下の3つにリーダー分類した。
モチベーション1:「親和欲求型」目標の達成より人とのつながりを大切にする。部下に好かれたい。
モチベーション2:「目標達成型」掲げた目標を成し遂げようと行動することにやりがいを感じる。今まで以上の成果を出したい。
モチベーション3:「権力志向型」仕事上の最大のモチベーションは権力を得ること、すなわち出世である。他人を動かす影響力を持ちたい。
さらに、部下にもアンケート調査とヒアリングを行ない、さまざまな指標から上記の欲求タイプとチームの業績、組織内の影響力、目標達成、部下のやる気などとの関連を検証した。
ヒアリングでも意外? な結果が
その結果、
調査対象となった管理職の70%が、一般の社員より権力欲求が高い。
親和欲求型は部下のやる気を低下させる傾向がある
権力欲求型は、業績、影響力、目標達成のすべてで、他の2タイプを上回った。
また、部下のヒアリングからは、
- 「親和欲求型のリーダー」を持つ部下ほど、上司への不満が高い。このタイプのリーダーは、部下から好かれたいと思っているため、例外に走る傾向が高い。例えば、部下のひとりが病気の妻と子供を世話するので休暇を申し出たとする。それが規則では許可できないケースでも認めてしまうため、部下たちの不公平感をもたらす。
- 「目標達成型のリーダー」は、何もかも自分でやり部下に任す事が出来ないので、部下のやる気が低下。部下たちは「自分は信頼されていない」と感じていた。
「権力志向型のリーダー」を持つ部下は責任感が高く、自分は強いと感じている傾向が高い。
つまり、優れたリーダーには「権力欲求」、俗っぽくいえば「野心」が必要不可欠。部下たちもまた、その野心家に魅せられ、モチベーションを高めることが詳細な調査で確かめられたのである。
ただし、例外がある。
マクランド博士は、「自己抑制力のない権力志向型は、組織を滅ぼす」と警告した。
「自己制御力の低いリーダーは、権力を組織のためではなく自分のために行使し、衝動的に権力を行使することも多い。彼らはしばしば他人に粗暴に振舞い、大酒を飲んだり、高級車を乗リ回すなど、個人的な威信を示すシンボルを集めたがる」(by マクランド)
最近でいえば、Uberの前CEO、トラビス・カラニック氏がこのタイプだ。
この件についてはこちらをお読みいただければわかるが、想像を絶する数のセクハラやパワハラが問題となったとき、
「社内にはカラニック氏と親しい「Aチーム」と呼ばれる人たちがいて、ハイパフォーマーは何をやっても会社に容認されていたことが、明るみになった。社長がお墨付きを与えたハイパフォーマーには、人事部も手を出せず、黙認するしかなかった」とされている。
そもそも、“権力者”は自分がいつも中心になるから、人の話を聞かなくなる。
次第に、“権力者”が法律となり、判断すべてが、“権力者”に委ねられ、人々は「考える」という、極めてめんどくさい作業と、「力のある人に意見する」という勇気のいる行動を、自ら放棄し、周辺もまた「権力者が権力を自分のために行使する」ことに結果的に荷担してしまうのだ。
例えば、モリカケ問題のように……。
リーダーに必要なのは、自分を支配する力だ
つまり、リーダーに必要不可欠な“権力”とは、単なる個人的な権力とは全く別物で。
権力を欲しながらも溺れない自分をコントロールできる自制心を持つ人が、“真の権力者”となる。
自己を律する力(=自己制御力)なき権力者がリーダーとなった暁には、その先は暗雲が立ちこめていて、当人のみならず組織も悲惨な末路をたどる事になってしまうのである。
さて、と。
「最高で最も困難な『ガラスの天井』は打ち破れませんでした。しかし、いつか誰かが、私たちが考えているよりも早く達成することでしょう」(by ヒラリー)
という言葉を胸に都知事はどう戦うのだろうか。
野心家の都知事に自己制御力はあるのだろうか。
そういえばこんな興味深い研究結果もあるので紹介しておく。
専門家の意見を聞くプロセスは…
権力者の中には「専門家の意見を聞く」プロセスを意思決定の場に組み込む者がいるが、この手法を好む権力者は社会を混乱させるリスクが高いとされている。
米国の心理学者のフィリップ・テトロックは、1980年代と1990年代に、数百人の専門家(政治家、政治学者、評論家など)を選び、ソ連崩壊、湾岸戦争、日本の不動産バブル、カナダのケベック州独立問題などの主要な出来事を予想させた。
その結果、専門家の予想正解率は、偶然の一致より低かった。特に自分の予測に、自信を持っている専門家と、メディアに登場する回数が多い専門家の、予想正解率が極めて悪かった。また、専門家が、「絶対に起こらない」と予測した事象でも、そのうちの15%が実際に起こったという(著書『専門家の政治判断(expert political judgment)』)。
さらに、1つの分野にだけ精通した専門家ほど、予想が当たらない傾向が高く、経験を重ねるたびに、予測精度が悪くなったのである。ところが困ったことに、どんなに予測が外れても、彼らは決して認めず、自己を正当化した。
そういえば、小池氏のブレーンは現在14人の外部顧問団との記事が、新聞に出ていましたっけね。
「担当範囲は五輪や市場にとどまらず、入札改革から介護問題など幅広く、都幹部は『我々が説明をしても、聞いてもらえない』と嘆く」(こちら)
「国難」を乗り越え、「希望」に導くリーダーは、いったい誰なのか。考えれば考えるほど答えのない回答を求められているようで、うんざりしてしまうのであります。
『他人をバカにしたがる男たち』
なんと“イッキに四刷”! 本当にありがとうございます!!
『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)
●世の男性をいっせいに敵に回しそうなタイトルになっておりますが、内容は「オジさんとオバさんへの応援歌」です(著者より)
●本の前半部分で「ジジイ化している自分が怒られてる」と思っていたら、最終的に「がんばろうとしているオッサン(私自身)」を鼓舞してくれるものになっていて、勇気をもらうことができました。
(伊藤忠テクノソリューションズ代表取締役社長 菊地 哲)
●「ジジイの壁」にすがりつく現代企業人の病根の原因を学術的に暴き、辛辣なタイトルから想像できる範囲をはるかに超えた深い大作。
最終章では男女の別ない温かい眼差しに涙腺は崩壊寸前、気づくと付箋だらけに。
(ヒューマンアーツ株式会社 代表取締役 中島正憲)
●オッサンへのエール、読後感は、一杯目のビールの爽快さです。
(50代 マンネン課長から脱出組)
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この記事はシリーズ「河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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