「社長になったときに、『こりゃあ困ったことになったぞ』と思いましたね。だって、社員と社員の家族が今の生活を守っていけるようにしなきゃいけないわけです。
 その責任の重さを考えるとね。うれしいなんて気持ちはなかったですよ。社員と家族が路頭に迷うようなことになったら、私の責任ですから……」

 以前、対談した大手企業の社長さんはこのように話してくれたことがある。
 そして、こう続けた。

 「だからね、社員にも責任を果たして欲しいんです。私は入社式で『仕事が楽しくないとか戯言をいうな』と。『会社はお金をキミたちに払っている。カネをもらえて楽しめるところがあるなら、私にも紹介してくれ』とね」

 社長さんの言葉を部分的に取り上げると、「ブラック企業」と騒ぎ立てる人たちもいるかもしれない。
 でも、「社長の責任に対し、社員は責任に答える」ーーー。これは至極当たり前のことだ。

 と同時に、「社長も責任を負う、社員も責任を負う」ことは一貫性の経験であり、人間の生きる力であるSOC(Sense of Coherence)を育む大切な行為だ。

 一貫性の経験とは「ルールや規律が明確で、価値観の共有」がなされている状態のことで、「職務保証(=job security)」と同義だ。

責任を「お互いが守る」と確信できること

 職務保証は、日本で広く理解されている終身雇用とは若干異なる。

 「会社のルールに違反しない限り、解雇されない、という落ち着いた確信」
 「その労働者の職種や事業部門が、対案も予知も計画もないままに消滅することはない、という確信」

 といった2つの確信を労働者が持ったときに成立する。

 つまり、「社員と社員の家族の今の生活を守ろう」という姿勢は、トップが「職務保証」を全うしようとする覚悟であり、雇用されている自分(=社員)も「ルールに違反しない」という責任を全うしなくてはならない。

 「会社を存続させる」という共通認識のもと、自らに課せられた責任を果たした結果、「昇進」や「昇給」が認められたり、自分の「能力を発揮する機会」を会社が準備してくれれば、それらがすべて働く人たちの「生きる力」「たくましさ」につながっていく大切なリソースなってゆくのだ。

 なんてことを書くと、なんだが「現実の日本の職場」とかけ離れている気がして、複雑な気持ちになってしまうのだが、仕事とは本来、人の生きる力を育む行為であり、職場とは「自律的な欲求充足に加えて、共同的な欲求充足をもたらすことが可能な貴重な場」であると私は信じているし、そのために経営者も従業員も、それぞれの責任を全うして欲しいと思う。

 だって、それが大切な人の命を守ることであり、働くことは本来楽しいことだから。

 ニーチェは「職業は人生の背骨である」と言い、マズローは「仕事が無意味であれば人生も無意味なものになる」とした。私は「職場とは人生の明日をつくる」空間だと考えている。

『他人をバカにしたがる男たち』
なんと“イッキに四刷”! 本当にありがとうございます!!

他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)

●世の男性をいっせいに敵に回しそうなタイトルになっておりますが、内容は「オジさんとオバさんへの応援歌」です(著者より)

●本の前半部分で「ジジイ化している自分が怒られてる」と思っていたら、最終的に「がんばろうとしているオッサン(私自身)」を鼓舞してくれるものになっていて、勇気をもらうことができました。
(伊藤忠テクノソリューションズ代表取締役社長 菊地 哲)

●「ジジイの壁」にすがりつく現代企業人の病根の原因を学術的に暴き、辛辣なタイトルから想像できる範囲をはるかに超えた深い大作。
最終章では男女の別ない温かい眼差しに涙腺は崩壊寸前、気づくと付箋だらけに。
(ヒューマンアーツ株式会社 代表取締役 中島正憲)

●オッサンへのエール、読後感は、一杯目のビールの爽快さです。
(50代 マンネン課長から脱出組)

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