私たちは価値あるメッセージの送り手になれているか?

 1986年から国家レベルで自殺対策に取り組んだフィンランドでは、自殺に至った要因の徹底的な分析と、数年にも渡る遺族の聞き取り調査を行い、自殺予防の全国的な戦略を立てた。自らも自死遺族であった社会保健省の大臣の強力なリーダーシップのもと、「必要な人」に届く政策が進められ、20年間で自殺死亡率を30%減少させることに成功している。

 自殺への偏見、自殺未遂者への適切なケア、うつ病に関する知識などの正しい普及、著名人によるうつ病の公表など、国家プロジェクトとして取り組んだことで、国民の意識も高まった。

 自殺関連の報道についても徹底されていて、具体的な内容は報道されない場合がほとんどで、著名人が亡くなった場合も、具体的な死因や自死の場所や方法が報じられることは極めて少ない。

 日本では「98年ショック」以降、「社会的な問題として取り組む必要がある」と認識されるようになり、さまざまな対策が講じられてきた。

 2006年には「自殺対策基本法」が制定され、日本の自殺者は6年連続で減少し、2015年は2万5000人を下回っている。

 この春からは基本法が改正され、都道府県が策定していた基本計画の作成を市町村にも義務付けたり、自殺未遂者を支援する拠点病院も置かれるなど、更なる取り組みも進められている。

 だが、いまだに多くの人たちが、今、この時間も追いつめられている。

 「離婚」「事業不振」「失恋」「倒産失業」「家庭内暴力」「家族の不和」「子育ての悩み」――。20代、30代が自殺未遂に至った原因には、人間関係に関するものも多く含まれている。

 マイナス評価がはびこり、時間的余裕も精神的余裕もない現代社会が、その温かい瞬間を奪い、自身も他者に無関心になったり、SNSで攻撃したりと、無用な刃を向ける存在になっていないだろうか?

 件の調査では、「自己有用感(=有意味感)」が自殺リスクを抑え、「自分の死を悲しむ人がいる」という確信が、暗闇に差し込む一筋の光になることが示されていたけど、私たちは価値あるメッセージの送り手になれているだろうか?

 余裕のあるときだけでもいい。「あなたは大切な人です」という気持ちを、声にしてください。