食後に作業員の方にインタビューしていいと許可が取れたので、

「この仕事を辞めようと思ったことはないですか?」

と、うかがってみた。すると、

「全くないです。一度もありません」

と即答した。

「この先もずっとここで働いていくのですか?」

「はい。事故前からずーっとここで働いています。この先もここで働きます」

 力強くこう答えた。彼らは自分たちの仕事に、誇りを持って働いていた。

でも、どこか違う。そう、何かが違う。

 現場には世界で誰もやったことがない、技術に挑もうとする空気があったし、おそらくこれが、“現場”で働く人たちのモチベーションになっていたように思う。

 本当に現場は、活気があって、働く人たちは明るくて、元気な“現場”のどこにでも漂う温かい空気が、そこにはあった。

 でも、どこか違う。そう、何かが違う。いったい何が違うのだろう……。

 原発内の見学を終え、Jビレッジに向かうバスの中で、広報の偉い方が、「桜の木があったのわかりました? 桜の開花予想とかも、作業員たちとやってるんですよ!」と明るく言った。

 が、その瞬間、なんとも言葉にし難い微妙な空気が車内に漂った。

 そうなのだ。この微妙な空気の正体こそが、“違い”だ。

 負の遺産を背負っていることを彼らは強く感じていて、無意識に無理して元気に振る舞っていたんじゃないだろうか。

 私たちはJビレッジで小さな線量計を付けさせられ、バスで移動して敷地内に入ったわけだが、“現場”の放射線量は極めて低かった。

 土の地面や斜面をコンクリートやモルタルで覆う「フェーシング」と呼ばれる取り組みの結果、線量は劇的に低下。外に出るときはヘルメットとマスクを付けるだけ。防護服を着る必要はない。

 ただし、原子炉周辺は別。特に3号機付近は放射線量が高く、外で作業する人たちは防護服。爆発でぶっ飛んだ建屋の屋根や、津波で曲がった柱は、テレビに映し出される景色と比べられないほど壊滅的。事故当時、この現場にいた人たちの壮絶な戦いは、私の想像する何千倍、いや何万倍も厳しく、しんどいものだったことが容易に想像できた。

 私はそれを見て、「本当によくやってくださいました。ありがとうございました」と、当時の現場の方たちに感謝した。

 その一方で、作業員の方たちが一言では語り尽くせない、苦悩と葛藤を抱えてながらこれまでの時間を過ごしたのだと痛感した。健康への不安を抱え、世間からのまなざしに耐え、罪の深さを十二分に感じ取りながらも、目の前の作業に徹してきた。それが、“シン・ゴジラ”が再び息を吹き返さないための最善の策。彼らには、前向きに作業すること以外、自分を肯定することができなかったんじゃないだろうか。

 そして最後に。

 私は震災のあと何度か福島に足を運んだ。

 原発で潤った町が、原発で壊れた。人がいなくなった村に、除染作業員たちがたくさんやってきた。

 村には至る所に、大きな黒や青色のビニール袋が積み上げられていて、それを見る度に、「人間ってなんて愚かなんだろう」と切なくなり、「人間ってなんて滑稽なんだろう」と悲しくなった。

 福島第一原発の現場には、今も4000人近くの福島県内の方たちが働いている。あそこで作られていたのは、東京の電気だ。シン・ゴジラのラストシーンは不気味だった。“現場”とシン・ゴジラの新たな戦いが、もう二度と起こらないことを、心から願っている。

読者の皆様へ:あなたの「読み」を教えてください

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 このキャンペーンに、あなたも参加しませんか。記事にコメントを投稿いただくか、ツイッターでハッシュタグ「#シン・ゴジラ」を付けて@nikkeibusinessにメンションください。あなたの「読み」を教えていただくのでも、こんな取材をしてほしいというリクエストでも、公開された記事への質問やご意見でも構いません。お寄せいただいたツイートは、まとめて記事化させていただく可能性があります。

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(日経ビジネスオンライン編集長 池田 信太朗)

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