一方、日本では実効性に乏しい施策ばかりが横行し、企業が実施しているメンタルヘルス対策の主流は、「相談窓口」の設置と「管理職研修」。
リーマンショックが起こるまでは、職場環境の改善や社員のストレス対処力を高める予防プログラムにお金をかける流れがあった。私は一次予防が専門なので、独自に開発したプログラムを使いたいという依頼を頻繁に受けた。
ところが、リーマンショック後その流れは途絶え、三次予防や四次予防のニーズが急増する。復職プログラムを完備し、亡くなった人に訴えられないように対応を徹底させたりと、メンタル不全の「事後」対応に必死な企業が増えていったのである。
進む「切り捨て社会」
最近は「健康経営」を積極的に行い(これについては別の機会に取り上げます)、従業員の健康を守り、生産性を高めている企業も徐々に増えつつある。だが、そもそもそういった会社はトップの問題意識が高く、“人にやさしい企業”で、かねてから環境対策に取り組んできた企業なのだ。
いまだに「メンタル不全=甘え」だの、「メンタル不全=ダメな人」という価値観から抜け出せないトップは多いし、数年前に「「大企業の8割に『メンタル不調』の従業員 理由の過半数は『本人の性格』」というタイトルの記事が新聞に出たように(参照記事:「性格が原因?」 メンタル不調者に張られるレッテルの恐怖 )、一般社員の中でも「個」の問題として捉える人は少なくない。
日本生命が2015年度に実施した調査でも、半数の企業が「(ここ5年以内で)メンタルヘルス不調による休職者数が増加した」と答えている。
同様の質問項目を設けたアンケート調査は、さまざまなところで行われているが、答えはいずれも一緒。「増えた」が5~6割、「変わらない」が2~3割、「減った」はわずか1割弱という傾向が認められている。
ちょっとだけ弱い人、ちょっとだけへなちょこな人、ちょっとだけ仕事がうまくできない人、ちょっとだけ人間関係を築くのが下手な人、そういった人たちはどんどんと切り捨てられ、家族も疲弊し、この先どうなってしまうのだろう?
繰り返すが、メンタル不全は個人の問題ではない。環境の問題である。職場環境を見直さない限り、明日は我が身かもしれないのですよ……。
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