責任の転嫁先がない社会

 そもそも、「ウツ=長時間労働」と思われがちだが、長時間労働だけがウツの原因ではない。

 仕事の要求度、裁量権、上司・同僚のサポート、職場の人間関係、担わされている役割、能力を発揮できる機会、報酬――。これらの程度や有無、適切性などに問題があると長時間労働以上のリスクファクターと化す。

 特に最近は、仕事をこなすのに高い質が求められるので、デキる社員ほど危険だ。

 かつての成功方程式が崩れ、試行錯誤を繰り返す以外に術がない現代社会では、当然ながら失敗も増える。が、会社はそれを許さない。

 「早く結果を出せ!」「なぜ、できない?」と責め立て、「失敗を許容しない空気」のプレッシャーにさらされるのだ。

 最初は「なにくそ」と思っていた人でも、次第に追いつめられ、周囲にデキる人が多ければ多いほど、難しい案件になればなるほど、しんどさが増す。

 「俺はなんてダメなんだ…」「なんて私は能力がなんだ」と自信喪失し、閉塞感と無力感に襲われ、心も身体もいうことをきかなくなり、折れる。

 「上が使えない」と責任転嫁できるダメ上司がいればいいけど、そういった人たちはとっくにリストラされているから、逃げることもできない。

 「責任転嫁なんて……」と口を尖らせる人もいるかもしれないけど、逃げるが勝ちというように、責任転嫁も立派な“傘”。言葉は悪いけど、ちょっとダメな上司も、ストレス社会を生き抜くには価値ある存在なのだ。

予防ではなく、うつ「後」の対処へのシフト傾向

 メンタルヘルス対策には、個人へのアプローチと環境からのアプローチがあり、とりわけ後者が効果的で、生産性への影響も大きい。

 しかしながら、環境からのアプローチは手間も時間もかかるので、国などが強制的に進めない限り企業独自で行うのは現実的には難しい。例えば欧州では1989年に、「EUの労働安全衛生の改善を促進するための施策の導入に関する指令」の中で、職場のメンタルヘルスへの対応を明記し、以下のようなPDCAサイクルの実施を企業に義務づけると共に、厳しく管理している。

 

○メンタルヘルスを阻害する職場の心理・社会的リスク要因を、実地観察やアンケートで明らかにする

○職場改善の具体的な行動計画を立てる

○実行する

○結果を評価し、改善を繰り返す

 もっとも厳格に実施されているデンマークでは、従業員1人以上のすべての企業がこのアセスメントを3年に1度以上行い、その改善状況を労働環境監督署が査察。徹底的なチェックが行われ、問題があれば同署から改善命令が出される。企業は命令に基づき、アクションプランを策定、遂行する。その達成状況は完全に公開されるため、働く人たちは一目で「問題ある企業」がわかる。

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