私が勤続20年の大型休暇を取ったとき、本当は彼も有給を取って2人でヨーローッパ旅行する予定でした。ところが、彼は『行かない』って言い出した。今、休んだら何を言われるかわからないから、行きたくない、休めないの一点張りでした。

 ……私が彼をもっと理解して、サポートしてあげられれば良かったんです。でも、できませんでした。私も仕事で疲れていて余裕がなかった。本当は仕事をセーブしてでも彼中心の生活にすべきだったのに、それができませんでした。

 自分でもなぜ、できなかったのかわかりません。私が仕事に熱を入れれば入れるほど、彼がしんどそうになるって感じていたのに。彼と向き合うのを避けている自分がいました。

 主人は僕はダメ人間だと、自分を無能呼ばわりするようになりました。昔はどちらかといえば自信があった人なのに。何がなんだかわからなくて。ちょっとしたことでイライラして、私にも大きな声を出したりするようになりました。

 なぜ、彼が……、なぜなんだって。なぜ、なんで彼がウツにならなきゃいけないんだって……。すごい苦しくて……。本当にずっと苦しかった。

 でも、河合さんのお話を聞いて、元気がでました。夫と正面から向きあう勇気が持てました。本当にありがとうございました」

「主婦にでもなろうか」「なれば? 私には無理」

 私が講演会で話したのは上司部下関係で、ストレスやメンタルヘルスに特化した内容ではない。感動のドラマを話したわけでも、苦悩のストーリーを話したわけでもなく、ただひたすら、人の心が環境、とりわけ「他者との関係性」で、どのように変わるのかを話した。

 その中に、彼女の琴線に触れるナニかがあったんだと思う。これはよくあることなのだが、傷ついている人ほど敏感に“言葉”に反応する。

 彼女はときに涙を浮かべ、最後には笑顔で御主人のことを話してくれたのだが、実は夫から逃げたくなるような言葉を何度も浴びせられていたそうだ。

 

 彼女の仕事や会社の話を機嫌よく聞いていた途中で突然、

「キミのように僕は優秀じゃない」
「キミのように僕は出世はできない」

と怒り出したり、ボーナスでバッグを買って帰ったら、

「高給取りはさすがだね」

と、イヤミを言ったり、

「キミは僕といる意味あるの?」

と、夫への愛情を問われたりした。

 彼女は自分に暴言を吐いて夫がすっきりするなら、と我慢した。ところが、ある日、キレた。

 取引先との付き合いで彼女が遅くなったので、先に帰った夫は夕食を作って待っていたそうだ。「ありがとう」と彼女が食事を食べようとした瞬間、

「主婦にでもなろうか。帰ってきたときに、ご飯をつくって待っててもらえるなんて、最高じゃん」

と夫は呟いた。

 反射的に彼女は、

「だったらなれば? 私には無理」と、言い返した。

 その途端、夫は口をギュッと結び、一点を見つめ、元気なときには一度も見せなかった悲しそうな表情になり、テレビをつけ、朝までテレビを見続けた。

 それから二度と彼女に、弱音も暴言も吐かなくなり、一人で籠ることが増えたそうだ。

次ページ ウツは夫婦間で伝染する