機会略奪のスパイラル

 貧困の最大の問題は「普通だったら経験できることができない」という、機会の略奪。とりわけ幼少期の「機会奪略」はその後の人生の選択にも大きな影響を与える。教育を受ける機会、仲間と学ぶ機会、友達と遊ぶ機会、知識を広げる機会、スポーツや余暇に関わる機会、家族の思い出を作る機会、親と接する機会……etc.etc。

 私たちは幼少期にこういった様々な経験を積む中で、80年以上の人生を生き抜く「リソース」を獲得する。

 ところが低所得世帯の子どもはそういった機会を経験できず、進学する機会、仕事に就く機会、結婚する機会など、「機会略奪のスパイラル」に入り込む。

 子どもの貧困率が増えた背景には、シングルマザーの増加や、非正規雇用の低賃金が存在していることがわかっているので、その機会略奪が「貧困の連鎖」を拡大させる大きなリスクになってしまうのだ。

 それだけではない。若干古いデータになるが、2011年~2014年までに自殺した国公私立の小中高校、特別支援学校の児童生徒約500人について実態を調査したところ、経済的困難で将来を悲観した自殺が5%と、いじめの2%を上回っていることが明らかになっている(文科省調べ)。

 つまり、今回のテーマを「リソースの欠損」とした理由がここにある。

 少々専門的な話になるが、リソースは、専門用語ではGRRs(Generalized Resistance Resources=汎抵抗資源)と呼ばれ、世の中にあまねく存在するストレッサー(ストレスの原因)の回避、処理に役立つもののこと。ウェルビーイング(個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態)を高める役目を担っている。

 「Generalize=普遍的」という単語が用いられる背景には、「ある特定のストレッサーにのみ有効なリソースではない」という意味合いと、「あらゆるストレッサーに抗うための共通のリソース」という意味合いが込められている。平たく言い換えれば、「いくつもの豊富なリソースを持ち、首尾よく獲得していくことが重要」となる。

 リソースは、遺伝や免疫などといった生物学的なものに始まり、カネ、体力、住居、衣類、食事、権力、地位、サービスの利用可能性、あるいは、知識や知性、知力。特に人間関係は重要なリソースで、社会や地域とのかかわり、友人・知人・家族などからのサポートも有力なリソースである。

一方、リソースの欠損は「目に見えない貧困」であり、それは「慢性的なストレッサー」となる。

 お金がないこと、知識のないこと、情報のないこと、サポートしてくれる人がいない、相談できる人がいない、気兼ねなく話せる人がいないなどなど、すでにお気づきの通り、「カネ」の欠損状態が、様々なその他のリソースを複合的に欠損させてしまうのだ。

 それを調査によって明らかにしたのが冒頭の3つの調査だ。

 たとえ「今晩、飯を炊くのにお米が用意できないという家は日本中にない」としても、「カネ」が欠損していることで、普通(欠損していない状態)だったら経験できることが経験できなかったり、普通だったら何気に手にしてるものが手に入れられなかったりする「人」たちがいる。

慢性的なストレッサーは確実に心身を蝕み、死亡リスクまでをも高めてしまうことが大きな問題であり、社会的損失なのだ。

次ページ 正社員と非正規は努力の違い??